医師 vs 歯科医師(1)  (歯科の変遷)

  明治以降、歯学部は医学部と同様に歩んでおり、大学での教育期間は医学部と同じ6年間で、カリキュラムも医学部と非常に良く似ている。教養科目と基礎系科目はほぼ同じだが、基礎系科目は、医学部は分子生物系、歯学部は理工学系の科目の占める割合が多い。歯学部では、臨床系科目は頭頚部と口腔領域に特化されているが、一般の医科系科目も学ぶ。医学部と歯学部は組織、権力争い、講座内のピラミッド型の階級構造なども似ている。両方とも一般的には「医師」と呼ばれるわけだが、医師は歯科医師を「医師」とは認めていない。そして医師と歯科医師の対立は明治から現在に至るまで続いている。

 元来、歯学教育は医学教育の中で行われていた。明治16年に制定された医師免許規則で歯科の試験科目が医科とは独立して設けられ、この試験の合格をもって歯科医院の開業が許可された。明治の時代から、歯科医師の教育制度や歯科医業の範囲について二つの意見があり、議論がなされてきた。一つは、明治28年に日本医事週報主筆の医師、川上厳華が掲げた医歯一元論である。歯科は眼科や耳鼻科などと同じ医科の一分野であり、歯科医師は医学を一通り修めた後に歯科を専修するのがよい、という意見だ。当時のヨーロッパにおける歯科医学に対する考え方であり、日本医学界の意見であった。もう一つは、歯科医師である血脇守之助が提唱した医歯二元論である。医学については概要を学び歯科については深く習得するのが良いという意見だ。当時の米国の考え方である。血脇守之助は、日本で最初の歯科医学専門学校として明治23年に開校した私立の高山歯科医学院を卒業した。医学を修めた後に歯科を修めるのは時間がかかりすぎるので、歯科の志望者が激減すると考えたのである。

 歯科医学教育に関して意見が真二つに分かれたのは医師と歯科医師の対立が原因であるが、もうひとつの背景として、高度な西洋式の医学教育を受けたエリート医師と従来の漢方医の対立があった。大学で医学教育を受けたエリート医師は「医師会のメンバーは、高度な教育を受けた医師で構成されるべきである」と主張しており、漢方医は医師会の会員を拒否されると開業が難しくなる可能性があった。漢方医は医学教育を受けずに見習いから身を起こした者がほとんどであったが、当時の医師の大部分を占めていた。歯科医師に対してはさらに厳しい開業条件を要求してくる可能性が大であり、危機的な状況が迫っていた。  

 明治26年に医学教育を受けた約3,300名のエリート医師によって大日本医会が結成され、明治30年に医師法案が衆議院に提出された。この当時、まだ医師法はなかったのである。内容は大きく二つであり、①医師免許は医師国家試験の合格者と医学部卒業者に与えるべし、②医師会は各都道府県に設置し、加入者以外は患者を診察できないものとする、であった。これは漢方医を医師ではないとみなすものであった。この法案は衆議院で可決され、貴族院参議院)で否決された。医師法にはもう一つ案があった。明治32年に東京帝国大学医学部出身者で結成された明治医会の医師法案である。この案は、医師を少数のエリートで固め、かつ歯科医師を排除する内容であった。法案の第1条に「歯科医師には法の規定を適用せず」との記載があり、歯科医師を完全に否定していた。この明治医会の中心的人物の1人が森鴎外であった。

 余談であるが、森鴎外は明治時代の作家として有名だが、本職は軍医で作家は副業であった。「嫉妬の世界史「(山内昌之著 新潮新書)によると、この森鴎外という人物は、誰かの成功や栄光を憎む嫉妬深い性質であったようだ。そのため、他人への度を越した反撃がしばしば行われた。

 歯科医師は全国で約600名程度と非常に少なかったが、明治医会の歯科医師排除の動きに対して敏感に反応し、全国的な組織を作って政治的な力を強めるために結束した。明治36年には日本歯科医師会を発足させ、歯科医師法案策定に向けて議論を始めた。議論を始めると、歯科医師を医師に含めてその身分を医師法において規定するのか、医師法とは別に歯科医師法を策定するのか、という医歯一元論二元論で紛糾した。結局、明治39年に医師法歯科医師法が公布され、歯科医師の身分が医師とは別に規定された。歯科医師の免許は文部大臣の指定する歯科医学校を卒業した者、歯科医師試験に合格した者に対して与えられることとなり、医師とは全く独立した免許となった。

 しかし、医師と歯科医師の対立は続いた。歯科医師法は歯科医師の身分を確立した法律であったが、医師による歯科医業を禁じる条項はなく、歯科医業を行う医師は増え続け、歯科医師と紛争を起こしていた。当時は歯科医師も少ない上に、虫歯が多く、医業よりも歯科医業のほうが儲かったのである。明治40年に、大陪審は、歯科は医科の範囲内であり歯科医師免許を持つ者は普通の医業はできないが、医師免許を持つ者は歯科医業ができるという判決を下した。こういった現状に反発した日本歯科医師会は医師の歯科医業を禁ずる医師法の改正を再三にわたり政府に訴えたが、医師会の猛烈な反対運動によってなかなか進展しなかった。大正5年に、医師が歯科の診療行為を行うには内務大臣の許可が必要だというところまでこぎつけた。歯科医師会はその後も努力を続け、歯科医師の身分を医師から守るために歯科医師法を改正させた。大正14年の改正では、歯科専門を標榜する医師は歯科医師とみなされ、歯科医師の死亡診断書の作成も認められた。

(次回へ続く http://smedpi.hatenablog.com/entry/2014/10/12/220328

医学部は不正な金銭が多い? その6(プール金の発覚事例)

(前回から続く http://smedpi.hatenablog.com/entry/2014/08/15/224237) 

 大阪大学の事件以降、文部科学省の要請を受けて、全国の大学では公的資金不正経理の調査を始めた。

 北海道大学では、2011年7月、札幌国税局から「取引業者との間で不適切な会計処理の疑いがある」と指摘を受けて調査を行った。2012年12月21日、2007年度以降に少なくとも2億2374万7285円に上る預け金などの不正経理があり、15部局の教授ら35人が関与していたとする学内調査の中間報告を発表した。最終的には、大学内に会計書類が残っている2004年度以降について調査する方針で、不正額や関与した教員数が大幅に増えるのは確実だ。報告によると、北大が提出を受けた取引業者16社の2004年度以降の預け金に関する帳簿には教授ら390人の名前と、164の講座名が記載されていた。北海道新聞  2012年12月22日)

 北海道大学は7月15日、架空発注で支払った物品代金を出入り業者に管理させる「預け金」など教員による研究費の不正経理の最終報告を発表した。記録が残る2004年度以降、不正経理に関与した教員は59人、総額は約5億3500万円に上り、うち退職者3人を除く教員56人を停職や出勤停止などとした。山口佳三学長ら理事8人も7月分の給与の10分の1を自主返納する。(読売新聞 2014年7月15日)

 北大と同じく札幌市にある札幌医科大学は、取引額や件数が多い業者106社にアンケート調査を行った結果、取引業者1社が「預け金がある」と回答したため、学内調査委員会を開き、事実関係の確認を始めた。(北海道新聞 2012年1月14日) この業者には公的資金8件から計約200万円の預け金があり、札幌医大は平成24年8月22日付で、預け金に関与した医学部教員3人に対して減給などの処分を行ったと発表した。札幌医大は北大と比べて大学の規模が小さいとはいえ、北大の状況から考えると、預け金を行った教員が3人で業者がたったの1社とは少なすぎる。教員や業者に対する大学の自主的なアンケートでは、預け金を正直に自己申告する者はほとんどいないであろう。国税庁のような外部の機関の指摘で大学が調査を行い、不正経理が発覚するのは稀な事例で、ほとんどは関係者による内部告発である。医学部は権力を笠に着た教授によるパワハラが多い職場であり、その被害者が新聞社などに告発するケースが多い。

 大阪大学の例に戻るが、問題の教授は研究補助員の女性へのただ働き要求(http://smedpi.hatenablog.com/entry/2014/08/03/212554)が発覚する以前に、公的資金の不正流用の問題も起こしていた。

 大阪大学調査委員会は2011年2月10日、流用の総額が4170万円に上ると明らかにした。元教授は2004年以降、カラ出張や架空伝票の作成を繰り返し、うち約450万円を私的流用していたという。大阪大は今後、詐欺罪で刑事告訴するか検討する。調査委員会によると、流用が発覚したのは大阪大大学院医学系研究科の森本兼曩元教授(64)で、現在は特任教授として同大に在籍。04年からカラ出張を202回繰り返して約360万円を流用したり、実際は同行していない研究員の出張費を268件申請して約1320万円を着服したりしていたという。また、研究室の備品を購入する目的で約1590万円分の架空伝票を作成、約360万円を業者にプールしていた。森本元教授は調査委員会に対し「不正の意識はなく大半は手続きミスだが、一部にカラ出張があった」と釈明。既に大阪大に3900万円を返金し、府に委託事業費約125万円を返還した。調査委員会は、森本元教授以外にも不正流用を行っていた職員がいたとして、今後調査を行う。時事通信 2011年2月10日)

 4千万円を超す研究費の不正使用が判明した大阪大の研究室の支出の中には、適正な購入と認められたものの、不可解な物品も数々ある。この研究室の教授だった森本特任教授(64)は大阪大の調査委員会に対し、研究や教育目的だったと説明。調査委は「自由な発想のもとでの研究には必要」としている。研究室の倉庫として使われている冷温室。新品の大型鍋三つ、ビールの原料の麦、瓶詰用のふたなどが入った段ボールが置かれている。鍋はいずれも2008年2月、森本特任教授が文科省科研費で栃木県の業者から計19万9500円で購入した。業者によると、ビール製造用の特注品。研究室が提出した書類には「研究で必要なため購入」と記されていた。しかし、当時の研究室関係者は「ビールの製造を指示された。森本先生の趣味で、研究とは無関係だった」と証言する。その前年、森本特任教授の指示で研究員らが実験室で別の鍋を使ってビールを醸造し、森本特任教授と研究員が学内で飲んだと語る。瓶につめ、世話になった人たちに贈ったという。国税庁によると、酒造には免許が必要で酒税法違反の疑いもある。その後、研究室で本格的にビールを製造するため鍋を購入したが、ビールづくりを担当していた人が研究室を辞めたこともあり、鍋は使われないまま放置されているという。森本特任教授は調査委に、「森林から出る化学物質を調べ、健康飲料をつくるため」と説明したという。04年8月には、研究室の運営費交付金を使い、「パロディーコンドーム」「キングバナナ」などの遊興用避妊具96個を計4万2151円で購入していた。若者の性感染症予防策を学ぶため、実習で学生らが神戸市内の店舗で購入したという。これらの避妊具は行方不明という。 環境医学を専門とする森本特任教授の研究とは直接関係ないとみられる書籍も多数購入。「オサマ・ビン・ラディン発言」「近代ヤクザ肯定論」など。森本特任教授が定年になる直前、定年退職を控えた官僚を主人公にした浅田次郎氏の小説「ハッピー・リタイアメント」を買った。研究費は大学の経理部局で管理。研究室からの届け出を、経理部局が書面の不備がないことを確認して支出する。大学の経理責任者は「研究費執行の権限は教授にある。教授が研究に必要だといえば支払わざるを得ない」。森本特任教授は「研究費の支出は研究室の会計責任者にまかせている」と話す時事通信 2011年2月11日)

 大阪府は2007年(平成19年)にストレスに関する調査のために300万円を問題の教授に委託した。不正使用が発覚してから、大阪府は委託経費の返還を教授に求めたが、教授に拒否され、返還に至ってはいない。当時、大阪府はホームページで次の橋本知事のメッセージを掲載していた。

 8月20日、大阪大学調査委員会が、大学院医学系研究科・医学部元教授の科学研究      費等の不正使用問題について、中間報告を公表しました。「不正使用」と認定した額は、1,731万円。この中には、大阪府が平成19年度に大阪大学に委託した調査費の一部(125万6千円)が含まれていることがわかりました。

 この調査は、平成19年度に総額300万円で大阪大学大学院に委託したものであり、その目的は、生駒山系、つまり、緑に囲まれた自然の中を歩いた人のストレスがどれだけ減ったかを調査し、今後の府の健康づくりの施策に役立てるためのものです。

 早速私は、担当部局に対し、事実関係を調査するよう指示しました。その際、さらにこの委託調査費の中で、海外(ヴェネチア、フィレンツェ)への出張経費65万円が支払われているという報告を受けました。これは、契約当初の段階では積算されていなかったものです。

 事情を聞きますと、当時の府の担当者は、委託経費の精算に際し、再三にわたり返還協議を行なったにもかかわらず、元教授は、頑なに返還を拒絶したということです。「大阪大学は国際的な研究機関だから、海外出張は当たり前」「契約の範囲内のことだから、事前に府に申し出る必要はないと自分で判断した」などと、大学の権威、大学教授の権威を振りかざす、勝手な強弁を繰り返したということでした。

 当時の府の担当者は、こうした元教授の強硬な姿勢に押されてしまい、返還請求にまで至らなかったとのことですが、こうしたことは、府民感覚、府民目線で考えると到底許されることではありません。

 元教授の横暴極まりない言動には、血税を使って調査研究を行っているという意識や姿勢が微塵も感じられません。研究室の経理や執行を指導すべき大学事務局も、元教授の主張を追認し、本府への返還を拒みました。大学としてのガバナンスがまったく欠如していたといわざるをえません。

 現在、大阪大学では、年内に結論を出せるよう調査を継続するとのことですが、府としては、今回の調査委託費の一部がイタリア出張に充てられていたということを重視し、自ら調査を実施するため、大阪大学に改めて関連資料の提出を求めています。

 大阪府が委託した300万円の経費の中にも、これだけの不正な経理がありました。最終報告では中間報告以上の不正が隠れているかもしれません。研究費の多くは、国民、府民の税金が原資であり、そのおかげで大学が成り立っているということを忘れてもらいたくありません。

 橋本知事の怒りが伝わってくる。「大学の権威、大学教授の権威を振りかざす、勝手な強弁を繰り返した」と記載してある。この社会常識からかけ離れた言動は、医学部の中でも特別に異常な教授だからだ、と一般の人々は思うに違いない。しかし、この教授は医学部の体質に十分に馴染んでいる。ただ、少し品性が足りなくて、あまり頭が良くなかったのである。昔は、権力を振りかざすこの手の医学部教授はたくさん存在した。最近は教授の腰も低くなってきたが、大学の体質は変わらない。 

(続く) 

 

 

医学部は不正な金銭が多い? その5 (プール金の実態)

(前回から続く http://smedpi.hatenablog.com/entry/2014/08/10/200017)

 不正経理の3つ目の手法は業者へのお金のプールである。ほとんどの医学部で行われていた。教員などがある特定の業者へ依頼して、提示した金額に見合った見積書や請求書を作成してもらい、架空の発注を行う。そして購入金額が大学から業者に払い込まれる。実験室で使用される試薬などの様々な消耗品を大学の事務方がいちいち納品の確認を行うことは少ない。また、架空発注される物は大体決まっているので、業者は架空発注用としての検品用の品物を常備していることもある。

 業者にプールされたお金はどうのように使用されるのか?好きなときに欲しい物を自由に買うのである。この場合、欲しい物というのは研究用の物品である。研究用の品物を買うのであれば、なぜ架空発注する必要があるのか?公的資金の使い勝手の悪さが原因で、このようなプール金制度を慣習化してしまったのである。資金は年度内に使い切るのが原則であるが、研究資金としてきっちりと使い切るのは不可能に近い。また、研究者というのは研究資金がいつか無くなることを恐れている。余剰の資金を貯金感覚でプールしておけば安心で便利である。例えば、必要な実験機材が500万円するのだが、年度末に100万円しか残っていない。次年度は400万円の資金が当たっているが、機材の購入には足りない。そこで、100万を使わずにプールしておけば次年度の資金と併せて500万となり、機材を買うことができるわけである。また、実験用の試薬などが急に足りなくなることは多々あり、すぐに購入する必要がある場合、業者に積もりを提出してもらい、公的な大学では入札が必要であったり、とにかく事務的な手続きだけで数日かかってしまうことがある。プールしておけば電話一本で購入できる。また、資金はその研究のためにしか使えない。どんなに資金が余っても、全く別の研究には使えないのである。しかし、大学の教員は1人が複数の研究テーマを抱えていることが多く、そのすべてに十分な資金があるわけではない。研究者にとって使い勝手の悪い公的資金を便利で合理的な使い方に変えるのがプール金制度である。

 しかし、研究者の中にはプール金を研究のためではなく、大阪大学のように私的な目的で使う不届き者もいる。業者に預けたプール金を研究室や個人にキックバックさせる者もいる。この場合、気の毒なのは業者である。業者はどんな形にせよ利益になるから不正に加担するわけだが、キックバックされたのでは元も子もない。

(続く)

医学部は不正な金銭が多い? その4 (カラ出張の手口)

(前回から続く http://smedpi.hatenablog.com/entry/2014/08/03/212554

 カラ出張も不正経理の手段としてよく使われた。カラ出張とは、出張に行っていないのに行ったことにして旅費を貰うことである。旅費の算出の仕方は助成金の種類や大学によって異なるが、往復の交通費と宿泊費を実費で支払う場合、往復の交通費の実費にプラス宿泊費を定額で支払う場合、出張の日数や行き先によって金額が決まる定額制の3通りの方法がある。実費で支払われる場合は領収書が必要であるからカラ出張は不可能である。問題は定額制の場合である。行き先と日数によって金額が決まるので領収書は必要ない。では出張に行ったという証明はどうするのか。まず事前に出張日程を旅費の支出先に申請し、出張から帰ったら航空会社の搭乗券の半券を提出する。従って飛行機を使ったカラ出張は不可能であるから、もっぱらJRでの出張がカラ出張に利用される。JRを利用する際は、切符は券売機で購入する事が多いため領収書は無いし半券も残らない。出張の名目は会議や研修会などへの出席ということにする。学会への出席は学会参加証などの提出が求められるのでカラ出張には使えない。事前の申請で出張に行ったという証拠が要求されない架空の会議をでっち上げるわけである。この点は野々村竜太郎・元兵庫県議員の政務活動費の日帰り出張の手口と同じである。そして、旅費は各人の講座に振り込まれるわけだが、その旅費を講座にキックバックする場合と、各人が個人的に別の目的で使う場合がある。後者の場合、研究費として使うのならば罪は少し軽いかもしれないが、中には私的に使う不届き者もいる。カラ出張は主に教授から助手までの大学の職員で行われるが、大学院生なども巻き込んで教室が一丸となって行っているところもある。

(続く http://smedpi.hatenablog.com/entry/2014/08/15/224237

医学部は不正な金銭が多い? その3(カラ雇用の実例)

(前回から続く http://smedpi.hatenablog.com/entry/2014/07/27/205106

 アルバイトの銀行口座に振り込まれた給料を自身で引き出して教授に現金で渡していた例として、大阪大学医学部の森本兼曩(かねひさ)元教授が研究員の女性にただ働きを要求し、この女性が労働基準監督署に訴えたという、とんでもない事例がある。

 女性は2007年4月~2010年3月、森本元教授の研究室で、研究室が受託した研究を手伝うなどの非常勤の「特任研究員」として勤務。元教授川が決めた時給などの労働条件で、阪大と一定期間ごとに雇用契約を結んでいた。当初、女性の雇用契約は週20~24時間程度勤務する内容だったが、元教授側から契約上の勤務時間を減らすようたびたび要求され、業務内容は変わらないのに、2008年8月から段階的に減少。2009年6月から2010年3月の間は週2~3時間だけの契約となっていた。実際には女性は元教授側から従来通りの勤務を要求され、多い時には週5日、1日10時間以上働くこともあったが、賃金は契約通りの週2~3時間分しか支給されなかったという。女性は2011年7月に労基署に相談した。 阪大は、労働基準監督署から事情聴取を受けた後、女性が保管していた勤務記録などをもとに未払い賃金を約300万円と算定し、10月に全額を女性に支払った。女性には、2009年5月以前も同様の未払い賃金があったが、労働基準法で時効となっており、請求はしていない。産經新聞 2011年10月25日)

 この女性の賃金は科研費ではなく阪大から出ていたようで、当初、女性は大学に訴えたのだが、「給与は問題なく支払われている」などとして応じなかったために労働基準監督署に相談したのである。大学の事務方は講座から提出される出勤簿に基づいて賃金を支払うので、大学側の言い分は一応正しい。女性は勤務記録と講座の担当者から送られてきたメールを保存していた。メールには次のように記載されていた。

 4以降のお給料ですが、Aさんは3万円、Bさんは10万円もらっていることと思います。Aさんは以前に森本先生へメールで「今年はお給料はいらない」とのことでしたので、お給料を研究室にバックしてくださいとのことです。Aさんは3万円(お給料の全額)、Bさんは5万円を返金してください。森本先生より、印刷物の原稿をテキスト入力するお仕事をいただいております。全部で3つ原稿があります。Aさん1つ、Bさん2つ、入力お願いいたします。間違いがないか確認をした上で、Aさんは5月15日までに、Bさんは5月22日までに提出してください。原稿は各自の机の上に置いておきます。以上、森本先生よりの伝言です。

 カラ雇用の対象者は二人だが、Aさん(被害女性)にはお給料全額を返却させ、そして仕事を与えている。Aさんが「お給料はいらない」と発言したからと書いてある。その経過はこうだ。

 2008年6月頃、森本元教授から呼び出され「あなたには価値がないので賃金を減らす」と言われ、雇用契約を変更する書類にサインするよう命じられた。元教授に理由を尋ねたが答えはなかった。女性は「職を失わないために元教授側の意向を受け入れるしかなかった。弱い立場につけ込む行為だったと思う」と答えている。研究室は元教授の意向に異を唱えることができない雰囲気だった。同僚からも「指示に従わなければ研究室にいられなくなる」と忠告され、週24時間の勤務を同7時間に減らす契約変更に渋々同意したという。この前後、女性は元教授側から賃金の一部をキックバックするよう求められていたが、「不正ではないのか」と思って拒否。翌2009年5月に上記のメールがあり、拒否した直後、前年度に続いて賃金の減額を迫られた。女性は「我慢すれば研究を続けられる」と自分に言い聞かせ、契約変更に応じたという。産經新聞 2011年10月25日)

 大学の対応は例によってお粗末で、女性が労働基準監督署に訴えたことで、やっと調査を行っている。それによると、元教授は研究室の部下に賃金の一部をキックバックさせるなどの手口で不正経理を繰り返していたとされる。女性は「私に対する仕打ちは不正に加担しなかったことへの元教授による報復だったと思う」と話している。

 このようなカラ雇用による不正は、対象となったアルバイトの事務員や研究員の同意を得て行われる場合と、同意を得ないで行われる場合がある。前者の場合は、不正経理に同意して自身の賃金の一部を教授にキャッシュバックするわけだが、自身は賃金を割り増ししてもらっていることが多い。例えば、週20時間勤務で申告しているが、実際には週10時間勤務で、賃金は週12時間分を貰っているという感じだ。自身も共犯であり表面化することは少ない。後者は通帳を教授などが管理している場合だが、ほとんどの当事者は不正を疑いつつも立場が弱いために我慢している。大阪大学の一件は不正経理パワハラがセットになって起こったために発覚した事例である。ほとんどの不正経理は、内部告発者が新聞社などに告発して発覚するが、泣き寝入りをしている人は数知れない。

(続く http://smedpi.hatenablog.com/entry/2014/08/10/200017

医学部は不正な金銭が多い? その2

前回(http://smedpi.hatenablog.com/entry/2014/07/22/110823)から続く

③研究費の不正使用

 医学部は研究費が豊富である。まず、大学の資金から各学部に研究費が振り分けられるが、医学部は他の学部よりも高い。特に国公立大学は高く、講座の人数によって金額は異なるが、講座ごとに年間数百万円の研究費が割り当てられ、人件費、物品購入、出張旅費などに使うことができる。他に、個人や研究グループに助成される競争的資金がある。代表的なものが文部科学省の科学研究費助成事業厚生労働省の厚生労働科学研究費である。いわゆる科研費と呼ばれ、いずれも公募によって採用された研究に対して、その主任研究者に資金が提供される。前者は文系、理系を問わずにすべての学部の研究が対象となるが、後者は研究対象が保健・医療関係であるから、医療系大学特に医学部、国立試験研究機関、国立高度専門医療センターなどが公募の対象となる。助成金額は1年間当たり数百万~数千万円で期間は1~3年である。

 科研費のような公的資金は使い勝手が非常に悪い。まず、年間の助成金が交付されるのが4月ではなく夏以降であるから、4月からの数ヶ月間は公的資金はゼロである。交付されたなら、やむを得ない理由がない限り、年度内に使い切らなければならない。やむを得ない理由とは、大震災の発生により、器械や器具の納品が年度内に間に合わなかった、などである。余った助成金を次年度に回して、次年度の助成金だけでは買えない高価な実験器械を買うこともできない。何が何でも単年度使いきりである。余ったならば、本来は国に返還するのが筋なのだが、努力して獲得したお金を返したくはない。そこで、研究者たちは自分たちの裁量で自由に使える方法を考えた。いわゆる不正経理である。

不正経理の手口

 医学部では臨床医学基礎医学を問わずほとんどすべての講座で不正経理が行われていた。その手法は3通りある。1つ目はカラ雇用、2つ目はカラ出張、3つ目は業者へのお金のプールである。カラ雇用はアルバイトの給料の一部を講座にバックする形で行われる。例えば、アルバイトの勤務が週3日なのに週5日勤務したことにして、週2日分の賃金を講座のものとする。公的資金は個人で管理するのではなく、大学の学務課などの事務方が管理している。講座と学務課は所在が離れていることが多いので、アルバイトの実際の勤務状況がばれることはない。アルバイトの銀行口座に振り込まれた給料を自身で週2日分引き出して教授などに現金で渡す場合と、アルバイトが採用になった時に銀行に普通口座を開設させ、その通帳を教授が管理し、その口座から、例えば週3日分の賃金を引き出して現金をアルバイトに渡し、残り2日分を教授などが手に入れる場合の2通りのやり方がある。

 (続く http://smedpi.hatenablog.com/entry/2014/08/03/212554

医学部は不正な金銭が多い? その1

  野々村竜太郎・元兵庫県議員の政務活動費の不正支出が問題になっている。平成25年度に城崎温泉豊岡市)など4カ所を日帰りで計195回訪問し、約300万円を支出した。いずれも領収書はなかった。その他にも、自宅近くにあるスーパーや県庁近くのコンビニなどで、クレジットカードで約530回買い物を繰り返した。報告書の支出の名目は「事務費」とだけあり、領収書ではなくカードの利用明細が添付されていた。また、金券ショップで切手を約175万円分購入していたが、報告書に品名の記載がなかった。兵庫県警は、商品券など別の金券を購入し、換金したり使用したりした可能性もあるとみて調べている。

 まるで公金の不正使用のデパートのようだ。しかし医学部も負けてはいない。以前はいろいろとやっていた。

①名義貸し問題

 医学部はお金が集まる学部である。10年程前には医師の名義貸しや地方自治体からの不正な寄付が問題となった。医師の確保が難しい地方の公的病院、または医療機関の経営状況や医師不足によって常勤の医師を雇用することができない医療機関では、医師の名義貸しが頻繁に行われていた。さらに、医師数は診療報酬の点数とも関係しているため、名義貸しが診療報酬の水増し請求にも利用された事例もある。2003年、北海道のY国立療養所が札幌医科大学の医師5人から名義を借りて常勤医の医師数を水増しし、診療報酬を不正受給していたことが発覚した。(朝日新聞 2003年8月20日)同じ時期に発覚した北海道大学医学部の名義貸し問題では、外科のT教授がO町立病院から約6年間に渡って月30万円を受け取っていた。いずれの件も全く勤務実態がなかった。(読売新聞 2003年8月22日)名義貸しは日本全国で行われていたが、北海道のような過疎地の多い地域で多く発生していた。

 名義貸しは、医師にとっては何もせずともお金が貰え、地方自治体にとっては医師を派遣してもらうために医局との良好な関係を維持できる利点があり、両者にとって一挙両得の風習であった。医師は社会におけるステータスが最も高い職業である。そのために特権階級意識が非常に強い。尊敬され、特別扱いされ、高給を取ることが当然であると考えている。また、医局という特別な組織で生きているので、名義貸しが社会通念からかけ離れた行為だと誰も思わなかったのである。

②自治体からの寄付金問題

 地方自治体から医局への寄付も、ほとんどの医局でごく当たり前に行われていた。地方自治体から公的な機関への寄付行為は国によって規制されているため、同窓会のような組織を経由して医局に支払われていた。あるいは、医局の医師の名義を借りて、その報酬を医師個人を経由して医局に支払うケースもあった。前述の北海道大学のT教授の医局ではいくつかの自治体から年間計2,000万円もの金額を毎年受け取っていた。(読売新聞2003年8月22日)そのようなお金を何に使用していたのか気になるところだ。医学部では各医局でアルバイト・パートの事務員や実験助手を雇用している。その人件費や医局員の学会出張、宴会などの福利厚生に使っていた。自由で使い勝手の良い非常に便利なお金であった。地方自治体からは金銭の提供だけではない。年に1、2回、自治体の首長や病院の事務長などが大学を訪問し、医師派遣を継続してもらうために料亭やホテルなどで宴席を設けることも行っていた。

(続く http://blog.hatena.ne.jp/smedpi/smedpi.hatenablog.com/edit?entry=12921228815728985280

医学部のセクハラ事例

 医学部のハラスメントに対するスタンスは「パワハラは良いけどセクハラはダメよ」だ。絶対的権力者である医学部教授は男尊女卑の傾向が強く、当然セクハラも起こる。パワハラと違って、セクハラは証拠がなくても認定されることが多い。医学部に限らず、教育機関はセクハラには厳しい。パワハラに対する処分は無いか、あっても軽く、辞職に至ることは少ないが、セクハラの場合は教授といえども重い処分となることがある。

l 毎日新聞 2006331

    脳科学者として知られる沢口俊之・北海道大大学院医学研究科教授(47)が大学の女子職員に

 セク シャルハラスメント(性的嫌がらせ)をしていたとして、北大が諭旨免職処分とする方針を決めたことが

 31日明らかになった。沢口教授は辞職願を既に提出しているが、代理人の弁護士によると、「セクハラの

 事実はない」として31日にも大学に異議を申し立てる。北大によると、沢口教授は05年7月ごろ、女性

 職員の自宅を訪れるなどして関係を持つよう数回迫った。拒否されると、「辞めてしまえ」などとどなりつけた

 とされる。女性職員は同年9月に学内のセクハラ相談員に通知。セクハラ等防止対策室に調査委員会

 を設置し、調査した結果、セクハラの事実を認定した。今月22日の教育研究評議会で処分を決め、本 

 人に通知した。沢口教授の代理人は「女性の方からアプローチがあり、女性の意に反したり、教授の立場

 を利用して関係を迫ってはいない」と話している。辞職願は18日に出された。4月1日までの2週間以内 

 に取り下げないと正式に受理され、諭旨免職前に自主退職扱いとなる。記者会見した北大の南俊夫広

 報課長は「諭旨免職は2週間以内に異議申し立てがないと確定するが、その前に辞職願が取り下げられ

 ないと自主退職の扱いになる」と説明している。沢口教授は「平然と車内で化粧する脳」や、阿川佐和子

 さんと共著の「モテたい脳、モテない脳」など、脳科学を分かりやすく解説した著書が多数ある。

 

l和歌山県立医科大学男性教授(43)が女子学生の体を触る(毎日新聞 2007124日)

    2007年、和歌山県立医科大学の独身男性教授(43)が質問事項に答えるとして女子大生を自宅

  に呼び必要以上に体を触ったなどとして、大学はこの教授を懲戒免職処分にしたと発表した。大学による

  と、教授は5月中旬、自分の専門分野に興味を持っていた女子学生を自宅に呼び、拒否したにもかかわ

  らず長時間、体に触った。女子学生が9月、大学側に訴えて発覚。内部調査に対し教授は「不適切な

  行為だった」と認め、9月から自宅研修扱いとなっていた。

 

l群馬大医学部の教授と助手がセクハラ(産経新聞 20071029日) 

群馬大(前橋市)は1029日、医学部の女子学生に対し50代の教授と40代の助手2人によるセクハラ(性的嫌がらせ)行為があり、同日付で教授を約11,000円減給(1カ月)の懲戒処分としたと発表した。助手2人は既に辞職した。大学側によると、615日深夜から翌日未明にかけて、前橋市のカラオケ店で開いた学生らとの懇親会で、助手2人は女子学生の足に抱きつくなどした。教授は女子学生とダンスなどをした上、助手のセクハラ行為を見逃していた。教授は「酔って寝ていて気が付かなかった」と話しているという。

この教授は別の女子学生にも飲み会で5分ほど足を触るセクハラ行為をしていた。この女子学生の訴えの内容は「2007517日に教授の診療科が飲食店で研修医の歓迎会を開いた際、教授がこの学生の隣に座り込み、密着した状態で「将来、うちの科に来ないか」などと勧誘しながら、ズボンの上から太ももを5分ほど断続的に触った」というもの。

 

l香川大学医学部教授が女子学生にキス迫る毎日新聞 200683日)

香川大学医学部の男性教授(52)が女子学生にキスをしようと迫り、文書訓告処分を受けていたが、学部長が事実を公表せず、1日まで大学本部にも報告していなかった。

 

l佐賀大学医学部教授が職員にセクハラ発言佐賀新聞 2006413日)

佐賀大学医学部の60代男性教授が部下の女性職員にセクハラ発言を繰り返し早期退職に追い込み、停職1カ月の懲戒処分を受けたが、教授はすでに退職届を提出し依願退職となった。同大によると、女性は昨年81日に採用されたが、教授は翌日から自らの性行動を話して感想を求めるなどのセクハラを始めた。女性は9月初めに大学のセクハラ対策機関に相談したが、行為は退職願を提出した913日まで続いたという。女性は同月末に退職した。教授は「女性職員の仕事を活性化するために話した。以前の職員にも同じような話をしている。精神的苦痛を与えて悪かった」と話しているという。佐賀大の古賀和文副学長は「大学の把握が遅れたため、相談後もセクハラが続いた。(対策を)見直す必要がある」としている。

 

l職員にセクハラ9か月間、医学部教授を懲戒解雇(読売新聞 2013327日)

女性職員にセクハラ行為を続けていたとして、和歌山県立医大は26日、同日付で医学部の男性教授(50)を懲戒解雇処分にした。大学の説明によると、教授は昨年1月に他大学から着任。同6月から約9か月間、女性職員に対し、教授の立場を利用してわいせつな行為やみだらな行為を強要していたという。先月28日、女性職員が大学側に訴えて発覚した。大学は調査委員会を設置し、関係者から事情を確認して処分を決定。教授は今月13日から自宅待機を命じられていた。教授は大学側の聴取に対し、おおむね事実を認めているが、女性への謝罪の言葉はないという。

この日行われた記者会見で、板倉徹理事長(学長兼務)は「許されない行為で、県民の皆様におわび申し上げる」と陳謝したが、「顧問弁護士と相談し、刑事事件にあたる内容ではないと判断した」と釈明。一方で、具体的な行為の内容については「女性のプライバシー保護のため言えない」と繰り返した。女性職員が県警に被害届を提出したかどうかは確認していないという。

 

 

 

 

 




医学部のパワハラ事例

 (前回からの続き http://smedpi.hatenablog.com/entry/2014/03/30/152529

 医学部におけるパワハラの事例を新聞報道などからいくつか紹介する。中には、被害者の人生やキャリアを大きく変えてしまうほどの悪質な事例も存在する。

  まずは琉球大学医学部の3

l「研究で嫌がらせ受けた」/琉大医学部助教授、指導教授を提訴 琉球新報19991123日)

     琉球大学医学部のB教授から約8年間研究活動などで嫌がらせを受け、大学側もその嫌がらせに対し適切な措置を怠ったとして、同大のA助教授がB教授と大学側を相手取り、550万円の損害賠償を求める訴訟を22日、那覇地裁に起こした。訴えに対しB教授は「どういう訳か分からない。(嫌がらせ行為について)身に覚えがないことだ。中身が分からないので何も言うことはない」と述べ、柊山(ふきやま)幸志郎医学部長も「内容が良く分からないのでコメントできない」としている。訴状によると、A助教授は199110月ごろ、雑誌への論文投稿に際し、B教授から「自分も著者に加えないと論文発表を許さない」などの要求を受け、これを拒否したのが発端となり、物品購入や同大紀要への業績掲載の妨害、実験、事務機器利用妨害など数々の嫌がらせを受けたという。このためA助教授は九州まで出向いて研究をせざるをえない状況に追いこまれるなど「B教授の私怨、腹いせで学問研究の自由や人格権を侵害された」としている。

    那覇地裁2003212日、原告の訴えを認め、国に約55万円の支払いを命じた。教授への請求は棄却した。

 

l教授相手にきょう提訴/琉大医学部講師ら2人 琉球新報2001627日)

琉球大学医学部の不当な医局人事や研究妨害で、精神的苦痛などを被ったとし て、同大医学部講師と元研修医の二人が国と同大教授を相手に計2000万円の損害賠償を求める訴えを27日、それぞれ那覇地裁に起こす。訴状によると、元研修医は1997年に県立八重山病院に赴任中、人手不足に加え、切迫した家庭の事情などから応援医師派遣を要請したが、無視された上、その後の異動でも不当な扱いがなされたため退職。民間病院への転職でも妨害があったと主張している。背景として、当時着任した上司が97年に「医局からの三人退局で派遣先の離島関連病院から手を引く」と命令。一方で出身大学による不当な人事で局員が減少し、応援医師の派遣も事実上停止になるなどの事情があったと元研修医は主張している。
  
訴状では、医局専門医は96年から974月までの間は20人いたが、99年に六人に減少、2000年で八人の体制になっている。
  
もう一つの訴えで同大医学部講師は「上司の教授が権限を乱用して、外来診療の担当を妨害している」と主張。新規患者の割り当てから排除されたことで研究活動を制限され、医師本来の診療ができない不当、不合理な立場に置かれていると訴えている。          
 

 

時事通信 2013321日)                             

琉球大学21日、セクハラやアカデミックハラスメントをしたとして、医学部の50代男性教員を停職10カ月の処分にしたと発表した。処分は19日付。同大によると、教員は200710年ごろ、元大学事務職員の女性と女子研究生に対して繰り返し性的な発言をしたり、性的な関係を迫ったりしたほか、優位な立場を利用して指示を出したという。     

                  

賠償額が高額の東京女子医科大学事例

l東京女子医科大学助教授が退職強要などで主任教授を提訴 毎日新聞 2003104日)

昭和50年に脳神経外科助教授に昇任した後,昭和63年と平成4年に東京女子医科大学脳神経外科の主任教授選考が実施され,いずれにも応募したが選考から外れた。平成10年の主任教授選考は全国公募とされ,原告である助教授や被告教授を含む5名が立候補した。選考委員会はそのうち3名を主任教授会に推薦することとし,業績選考および面接選考が行われたが,原告は業績評価・面接評価・総合評価ともにいずれも5名中4位の評価であり最終候補者に残ることはできず,被告教授が主任教授に就任した。また,平成1011月から翌年にかけては大学付属病院脳神経外科部長(教授)選考が行われ,原告を含む4名が立候補したが,原告は選から漏れた。
   
被告教授は,平成1010月,主任教授に就任してすぐの脳神経外科職員会議において,スタッフの大改造を考えており定年までとどまる必要はないから自覚のある者は身の振り方を考えるべきとする旨の書面を配布し,原告はこの文書の対象は自分のことだと認識した。被告教授は,原告の同じ出身大学の1年後輩に当たり,原告と一緒に仕事をしていくのはかなりつらいという思いを持っていた。同年12月の医局忘年会でも,被告教授は,スタッフの中にお荷物的存在の者がいるので死に体で教室に残り生き恥をさらすより英断を願うという内容の書面を配布し,同様の趣旨のスピーチも行った。原告はこの文書の対象者は自分であると感じ,学長やその他の教授もこの文書を読んで対象者は原告であると察し,学長は後日,被告教授に対して注意をした。その2日後の定例職員会議では,被告教授が原告を批判する発言を行い原告と被告教授の口論となった。
   
原告は,平成1243日,被告大学学長に対して,職場ハラスメントを退職理由として,同年5月末付で退職する旨の退職届を提出した。学長や他の教授はこれを慰留したが,結局辞職するに至った。原告は,被告大学には雇用契約に基づき公正で平等な処遇をする義務を負うもので原告を教授に昇格させる義務があったと主張し,教授昇格差別による差額賞金や教授昇格されなかったことに対する慰謝料1000万円、退職強要行為により受給できなかった企業年金55559400円,退職金額17792434円,給与額65005100円,それから退職強要行為による慰謝料3000万円他などを求めた。

昇格差別に対しては原告の主張を退けたが、退職強要などのハラスメントを認め、大学は450万円を被告教授と連帯して賠償義務を負うものとされた。

最高裁第1小法廷(泉徳治裁判長)は14日、元助教授側の上告を棄却する決定を出した。大学と教授に総額450万円の賠償を命じた東京高裁判決(20032月)が確定した。12審は「侮辱的な言葉で退職勧奨した」と大学側の過失を認めたが、元助教授は「訴訟で大学の職場環境改善も求めたのに、2審が判断していない」などとして上告していた。

 

何かとお騒がせな横浜市立大学医学部で、被害者がTVで告発した事例 

l横浜市立大学医学部教授が講座所属の女性医師にセクハラ、パワハラ (2008年) 

朝のテレビ番組で被害女性が実名で告発。パワハラの内容は、患者の前で「CT取れ、そんなのも分らないのか」とののしった。セクハラの内容は、被害女性が教授の部屋を訪れた際に「そんなのじゃダメだ。もっと(性格が)丸くならなければ結婚できない」と発言した。 さらにパソコンを取り上げられた。大学の対応は非常に悪く、同大ハラスメント防止委員会に申し立てを行ったが、四カ月以上経過しても放置されたままで、大学側の調査姿勢が疑問視された。再調査を希望している被害者の弁護士は「質問はできない、異議申し立ての方法もない。これからどうするかも明示されていない。非常に納得できない」と憤慨していた。

TVで実名告発となると尋常ではない。相当の覚悟と怒りがあったはずだ。実際に大学の対応は相当にひどいもので、被害者は大学と戦う手段が他になかった。この事件の前に、この教授は同じ年の3月に、学位を取得した学生から現金を受け取って問題になっていた。横浜市立大学医学部では1/3にあたる22人の教員が、学位の見返りに謝礼金を受け取っていたことが、その後の調査で判明した。金額は300万円に達するものも存在し、中には学位と引き換えに露骨に謝礼金を要求する教授もいた。ハラスメントを行った教授の医局では、医局員11名が謝礼金の内部通報者の責任追及を求める「申入書」を大学に提出する異例の動きになったが、大学側は特に対応は行なっていない。本来保護されるべき内部告発者を追及する動きは異常な事態であった。

 (続く http://smedpi.hatenablog.com/entry/2014/04/11/110149

 

 

医学部はパワハラ天国 3

(前回からの続き)http://smedpi.hatenablog.com/entry/2014/03/24/160243

裁判が決着した後、この方はハラスメントの実態調査を行っている。「アカデミックハラスメントの実態調査研究 -大学および大学教員に対するアンケート調査結果報告書-」(2002年 奈良県立医科大学 御輿久美子である。少し古いが、ハラスメントの実態は今も同じであろう。アンケートの回収率は38%と低いが、931名が回答した。以下はアンケートの集計の一部で、各質問に「はい」と答えた人の%を男女別に示したものである。  

 

 

男性

女性

研究費の配分で不公平を感じたことがありますか

8.1%

14.8%

研究能力が劣っている、つまらない研究をしていると言われたことがありますか

14.6%

20.5%

研究に必要な機器や備品の使用を、あなただけが禁止されたことがありますか

3.2%

6.2%

講義や実習の担当をはずされたことがありますか

4.6%

18.0%

あなただけ、講義や実習の担当を増やされたことがありますか

13.1%

19.4%

あなたを貶めるような噂が流されたことがありますか

13.0%

21.0%

「辞めろ」と言われたり、望まない人事に応募するように迫られたことがありますか

9.4%

14.8%

 やはりというべきか、ハラスメントを受けたことがあるのは男性よりも女性のほうが多い。アンケート対象となった学部の内訳が不明だが、医学部のみを対象とするならば数字はもっと上がるであろう。

興味深い自由記述を以下に列挙する。

・ 他人の研究論文を書くことを強いられた。

・ 実験データの捏造があった。データの改ざんをさせられた。

・ 博士論文を書くとき、不正を強要された。

・ 長期出張中に勝手にファースト・オーサーをとられて論文を出された。

・ システム上昇格できないので、外に出るしか方法がない 

・ 研究費を使うに際し、教授の許可を必要とし、個人で得た研究費は教授の研究費として使われてしまう。また、年度内に消化できない研究費は、教授個人が一部の業者の預かり金としてプールし、教授自身の使途に使われてしまう。 

・ 自分で取った科研費が使えない人がいる。 

・ 論文の提出を妨害された。論文を書かせてもらえない。 

・ 仕事を過重に与える。

・ 目下の人から悪意の告発を受けた人がいる。 

・ 部下を使って嫌がらせを繰り返す教授がいる。他の教官の研究や教育の足を引っ張って、自分の部下を他の者を追い越して昇任させた。 

・ 研究室内で孤立させられた。 

・ 重要な回覧を回してもらえない。 

・ 同僚が、教授から教官の定員問題で教授室に呼び出され顔をにらみつけられ、転職を迫られた。その時の雰囲気は暴力団から恫喝を受けているようだった。

・ 昇任の妨害があった。

・ 同じ専門分野の教授に嫌われているため、昇格や長期研修を妨害されていると思われる教員がいる。人  

  事権や重要事項の決定権は教授がにぎっているためかと思われる。

・ 公衆の面前で攻撃がおこなわれる。 

・ 学生の修論を勝手に書き直して指摘する、翻訳だけして元の著者の名前を削るなど、著作権の意識が低い。

・ 「将来のことが心配です」と言いつつ、望まない人事に応募するようにすすめられた。 

・ 同じ研究所内で助手が二人辞めさせられた。二人ともポスドクになった。

・ 新任の教授から退職するように言われた。挨拶代わりに「新しい所は見つかりましたか?」と毎朝言われていた。

・ 遠回しに、お前は研究室に必要ないという意味合いの言葉を言われた。

・ ある学生は、研究テーマを変更しなかったため、不当に教授からいじめられていた。いじめの内容は、研究発表のとき、何を言っているかわからんと叱りつける。お前は適当にしとけと無視するなど。 

・ 院生が指導教官から運転手にさせられた等々の被害を受けた。その教室では過去、院生の自殺者が複数出ている。また、心身症にかかった人も出ている。 

・ 大学院生に対する不当なおどしが日常的にある。

・ 男性の教官からヒステリックに無能呼ばわりされノイローゼになった女子大学生のケースがあった。指導時の言葉の使い方や態度に人間としてのエチケットを心得ない教官がいる。

・ 女性の助手は、技官や事務員から「仕事をしていない」などの不当な中傷をされたり、本来の職務以外の仕事を押し付けられていた。 

・ 能力がないと文句を言われ、辞めるよう、または他大学へ行くよう常に厭味を言われている助手がいた。しかもそれを学生の面前で言う。

・ 産休をとるなら、辞めるようにと迫られた。 

・ 「女なんて手込めにしてしまえば何でも言うことを聞く」と言われたことがある。明らかにセクハラだ。 

・ 前の職場で上司から文字通りの性的嫌がらせ(性的行為の強要)を受けたことがあった 

・ マッサージを強要される。

・ 昇進の鍵をにぎっている教授(男性)から「今度いつデートをしてくれるか」といわれ、返答に困った 

・ 自宅への執拗な電話が上司からある。 

 

論文の著者を他の人に譲るように言われたり、他の人の名前で書くように強要されたり、実験結果を教授にとられたり、という実験系研究者に特有のハラスメントも多く存在していた。データのねつ造の強要まである。医学部では人事権は教授の専権事項なので、昇進の阻害や退職の強要は日常茶飯事である。女性の場合はセクシャル・ハラスメントも多い。

  そもそもハラスメントは教授の個人的な資質に由来する問題ではるが、医学部特有の閉鎖的な権威主義がハラスメント発生の土壌となっている。医学部の教授はキャリア・業績・学閥・根回しで決まり、人間性は全く考慮されない。医学部においては権力志向の強い一癖も二癖もある教授が多く、基礎医学においては躁うつ病などの感情障害やパーソナリティ障害などを有する者もおり、ハラスメントの自覚がないか、あっても意に介さない者が多い。 

医学部ではハラスメントが非常に多いにもかかわらず、大学側に訴え出る者は少ない。一般の会社員と違って、医師は転職に事欠かない。ハラスメントを受けても我慢したり訴えたりせずに、もっと環境の良い職場へ移動することが十分に可能なのである。もっとも、大学に訴えても解決しないことが多いのだが。

 

(続く http://smedpi.hatenablog.com/entry/2014/04/05/201739

 

大学における初めてのパワハラ裁判は医学部で起った

大学におけるパワハラについて、初めて裁判で争われたのが、2002年に判決が確定した奈良県立医科大学の事例だ。公衆衛生学講座の女性助手(当時52歳)が教授から嫌がらせを受けたとして、教授と奈良県550万円の損害賠償を求めた訴訟を起こした。1審の大阪地裁は県に対する損害賠償額を11万円に減額し、教授に対する請求は棄却した。

この助手がハラスメントを受けるようになったのは、19934月にこの教授が助教授から教授に就任する際に、助手が反対したことがきっかけである。ハラスメントの内容は「昇進の差別」「出張中に助手の部屋の前に廃液を置いた」「応募資格がない他大学の応募を勧めた」「正当な理由なく、他大学との兼業承認申請に押印しなかった」などである。大阪地裁はこれらの違法行為を認定したが、裁判長は、「兼業申請の件以外は、違法な嫌がらせとまでは言えない」としたのである。

その後、「教授から嫌がらせを受けた」と出版物に書いたこの助手に、教授は損害賠償を求めた訴訟を起こしている。1審の奈良地裁は名誉棄損を認めて助手に33万円の支払いを命じたが、2005年に大阪高裁はこの判決を取り消し、教授側の請求を棄却する逆転判決を言い渡した。

要するに、教授のハラスメントが違法であることが始めて認定され、その責任は大学の設置者である県にあるとしたのだ。

県立の大学であり、教授は公務員なので責任が県にあるのは当然であろう。もし私立の大学であれば責任は教授本人にあるとされたかもしれない。奈良県立医科大学のような公立の医科大学は、現在はほとんどが看護学科などを併設しているが、もともとは医学部のみの単科大学がほとんどである。このような医学部だけの単科大学は、教授の権限が強く閉鎖的で保守的であるという共通の特徴がある。他の学部がないため、医師が一番偉いという思い込みの強い人が多い。

訴えられた教授がどのような教授であったのか不明だが、訴えを起こした助手は女性で非医師である。医学部においてハラスメントを受ける要素が揃っている。

それにしてもはパワハラの損害賠償は少ない。この例では結局11万円であった。一般的にも多くて50万円くらいである。だから弁護士はパワハラ訴訟を嫌う。しかも、ハラスメントには証拠が必要で、証拠がなければ「ハラスメントはなかった」ことになってしまう。一般の会社でのハラスメントも同様だ。大学でハラスメントの調査委員会が開催されても、「ハラスメントはなかった」という結論に達することは稀ではない。教授などの加害者の言い分を一方的に認めるからだ。人前で怒鳴ったり殴られたり、あるいは絶えず録音テープを持ち歩いて録音でもするのでなければ、「ハラスメントは証拠がない」のが普通である。ハラスメントをしても、少し注意されて終わりならば、いつまでたってもハラスメントはなくならない。

ところで、奈良県立医科大学は判決があった直後に、大学のホームページの目立つ位置にハラスメントに対する取り組みを掲載していて、私は妙に感心していた。ところが、被害者である助手が定年退職した頃から(?)、その取り組みはホームページから消滅してしまった。

 

(続く)http://smedpi.hatenablog.com/entry/2014/03/30/152529

医学部はパワハラ天国 2

(医学部はパワハラ天国1 http://smedpi.hatenablog.com/entry/2014/03/21/224419

 

横浜市立大学のハラスメントは被害者が2年生ということで、おそらく基礎医学系の教授だと思われるが、教授が権威を笠に着てハラスメントを行う事例は医学部では珍しくはない。

実は、このハラスメントにはおまけが付いていた。教授の暴力行為で医学部長が監督責任を問われ戒告処分となった。ハラスメントそのものは加害者の人間性とトップとしての資質の問題で、医学部長が監督責任を問われる類のものではないので、このような処分は珍しい。さらに医学部長は、「私的食事会で次期理事長の擁立を画策した」というどうでもいいような理由で、「医学部長として不適任」ということで、戒告処分の翌日に職を解任されている。つまり大学は、医学部長解任の前日に、非常識な一教授の監督責任を問い、わざわざ戒告処分を行ったのである。

 

 この医学部長は日経メディカルオンライン(2011. 6. 20)で次のように述べている。

本多常高理事長と布施勉学長に突然呼び出され、「医学部長を辞任してほしい。応じなければ解任する」と告げられました。その理由は、「理事長後任人事をあちこちで話していることが調査の結果、分かった」というものでした。「全く身に覚えがない」と反論しましたが、学長は証拠を示さないまま、「私たちはあらゆる証拠をつかんでいる」とただ主張するばかりでした。

真相は、理事長と学長の誤解によるものらしいが、結局はハラスメントの監督責任を取らされた上に、医学部長を辞任することになった。

 横浜市立大学の医学部はたびたび事件を起こしており、1999年には心臓疾患患者と肺疾患患者を間違えて手術するという前代未聞の患者の取り違え事件を起こしている。2008年には教授が講座所属の女性医師にセクハラとパワハラを行った。20128月には、看護師が栄養チューブの詰まりをとる際、誤って酢酸液を通常の約25倍の濃度で注入し、50代の女性が死亡するという医療ミスも起こしている。

医学部はパワハラ天国 1

  教授を頂点とした医学部の閉鎖的なピラミッド型の講座はパワーハラスメントパワハラ)の温床となっている。教授はパワハラをして当たり前、これに耐えてこそ一人前の医師になる?

医学部はハラスメントに対する意識が非常に低く、その対策を行っていない大学は多い。大学のホームページにハラスメント対策を掲載していない大学は、学生や職員を守る気がない大学だと考えてよい。国公立大学では、東京医科歯科大学浜松医科大学札幌医科大学横浜市立大学京都府立医科大学奈良県立医科大学である。旭川医科大学と滋賀医科大学セクシャルハラスメント(セクハラ)対策のみ。いずれも医学部中心の規模が小さい閉鎖的な大学である。 

ハラスメントの相談員や委員会が設置されていて、一応ハラスメント対策を打ち出している大学もあるが、十分に機能しているとは言えない。 

ハラスメントの対象は、もっぱら研修医・大学院生・教員・講座の事務職員である。加害者は教授が多い。医学部では教員と学生の関わりが少ないので学生が対象となることは少ないが、横浜市立大学では、教授が学生の頭を踏むというとんでもないハラスメントが起こっていた。

 

横浜市立大学医学部教授が医学科3年の男子学生(20)を土下座させ頭を踏む。(読売新聞 201179日) 

横浜市立大医学部医学科3年の男子学生(20)が、男性教授に土下座させられたうえ、頭を踏まれ、精神的苦痛を受けたとして、教授を相手取り330万円の損害賠償を求める訴えを横浜地裁に起こしていることが8日、分かった。市大は事実関係を調査中で、処分を検討する懲戒審査委員会(委員長・布施勉学長)も開かれている。訴状によると、教授は今年2月、学期末試験会場で、面識のない3年の男子学生に証拠もないのに、女子学生にストーカー行為をしているなどと名誉を傷つける発言をした。男子学生に「犯罪者」「ストーカー」などと発言。学生は身に覚えがなかったが、試験終了後に教授室を訪れると、教授から土下座を強要され、頭を踏みつけられたという。さらに、教授から、頭を丸め、反省文を提出するよう求められ、「多大な精神的苦痛と恐怖を受けた」としている。学生は3月、市大ハラスメント防止委員会に被害を申し立て、428日、横浜地裁に提訴した。教授は読売新聞の取材に「ノーコメント」と話している。620日に第1回口頭弁論があり、教授側は答弁書で、土下座させ、頭を踏みつけたことなどについて「おおむね認める」とした。また、「深く反省しており、原告に直接謝罪したほか、翌週には原告本人と両親に再度謝罪している」とし、損害賠償については「争う」としている。一方、市大人事課は「事実関係を調査中だが、真実だとすればパワハラにあたる」との見解を示している。

629日、横浜市立大はこの教授を停職3カ月の懲戒処分にし、監督責任を問い、60代の医学部長を戒告とした。

 (共同通信社  2012327日) 

学生は330万円の損害賠償を求めた訴訟を起こし、横浜地裁2012326日、教授に121万円の支払いを命じた。内田貴文裁判官は判決理由で「十分な裏付けをせずに一方的に犯罪者呼ばわりした上、暴行したのは悪質。落ち度のない学生が、教授という影響力のある立場の者から、退学などと罵倒された精神的打撃は甚大だったと推察される」と述べた。

 誰かのうわさを教授が勝手に誤解したのか、誰かが教授へ悪意ある言いつけを行ったのか不明だが、いずれにしても試験会場で学生の名誉を傷つけ、教授室で頭を踏み土下座させるなどもってのほかである。本来なら懲戒免職が妥当である。そして、停職3カ月という大学の処分は甘い。学生が訴訟を起こしたのは、おそらく大学の対応に不満があったからだろう。

 (続く→ 医学部はパワハラ天国2 http://smedpi.hatenablog.com/entry/2014/03/23/172614

続 小保方さんのこと

 小保方さんは博士論文の画像や参考文献もコピーペーストしていた。画像はコスモ・バイオ社が作成しホームページに掲載しているマウスの幹細胞の写真。見る限り全く同じ細胞だ。また、論文の最後に添付することになっている参考文献リストもコピペだったようだ。2010年に台湾の研究者が医学誌で発表した論文の文献リスト53件のうち、38番までをそのまま使用している。結果として、論文の内容とは関係ない文献リストになっていて、一部文字化けしている文字もあるとのこと。コピペ元の文献リストは著者名のABC順で並んでいて、38番目の文献はPで始まる姓のため、小保方さんの文献の著者名はPまでに偏っているという不自然さがあった。

 こうなると、論文の内容はほとんどコピペで、研究結果は嘘だったのではないかと疑ってしまう。当然STAP細胞も・・・

 小保方さんはものすごくいい加減で、非常に倫理観に欠ける人間だということなのか?希代のほら吹きなのか?私は一夜にして彼女に対する評価を一転させてしまった。おそらく、彼女は今後、リケジョとしてその世界で生きていくことはできないだろう。再出発は無理かもしれない。

 そして、このようなことは彼女だけが特別ではないように思える。たまたま非常に注目されただけで、似たようなことを大なり小なりやっている研究者は意外と多いかもしれない。

 小保方さんの博士論文は大学における博士取得のいい加減さも露呈した。今回の件で、これだけは良かった。

 

 

 

医学部の威圧的な教員

 医学部の学生は生意気で頑固な者が多い。医師になると患者・看護師・周囲の者から「先生」と言われて表面上尊敬され、「医師は特権階級だ」と勘違いしてしまう。特に、卒業後も大学に残り出世していく医師は、ものすごくエリート意識が強く、権威や名誉を求める者が多い。このような医師が講義を行うとどうなるのか?授業評価アンケートに記載される医学生の自由意見には他の学部にはないと思われるある特徴がある。「威圧的だ」「怖い」「威張る」「学生をバカにする」などと指摘される教員が多いのだ。今時、学生を威圧しながら講義を行う教員がいることは驚きだが、世の中で医師が一番偉いと思い込んでいればそのような態度になる。

 医学部の受験生の面接に際しても威圧的に振る舞う教員がおり、医系予備校「進学塾ビッグバン」主宰で、すばる文学賞受賞作家の松原好之氏も201169日の「日経メディカルブログ」の中で、以下のようにべている。 

 まず国公立の面接官には、「うちの大学に入れてやる」と上から見下ろす体質が満ち満ちている気がします。私立の「うちの大学に来ていただく」とは真逆のこの体質が、悪評の根本原因なのでしょう。両者の違いについては、大学病院の勤務医と開業医の診療態度について、患者からしばしば聞く話を思い出します。受験生はとても弱い立場で、いわば患者と同じです。大学病院でエライ先生からひどいことを言われて落ち込んだ患者が、開業医の先生の優しい一言で救われた、という話はよく耳にします。

  同じようなことを、試験を受けて帰ってきた受験生から愚痴のように聞かされます。よく聞くのは質問だけしておいて、こちらが何とか答えても「なるほど」とか「分かりました」とか、「もう少し詳しく説明してください」といった返答すら一切せず、全くの無視でリアクションがない面接官です。

  中には長年浪人していた学生に向かって、「浪人時代に何をしていたんだ、年食ってほかに行き場がないから医者になろうなんて、ふざけてる!」などとひたすら面罵に近い説教をする面接官や、読んだ本について聞かれ、型どおり「夏目漱石」と答えると、「私はこう見えても漱石はかなり読み込んだ。君がそう言うなら『則天去私』について説明したまえ」と言うので、しどろもどろになりながら言葉を繰り出すと、途中で「もういい。その程度で軽々に漱石の名を口にするんじゃない」としかる面接官もいたそうです。