医学部は不正な金銭が多い? その3(カラ雇用の実例)

(前回から続く http://smedpi.hatenablog.com/entry/2014/07/27/205106

 アルバイトの銀行口座に振り込まれた給料を自身で引き出して教授に現金で渡していた例として、大阪大学医学部の森本兼曩(かねひさ)元教授が研究員の女性にただ働きを要求し、この女性が労働基準監督署に訴えたという、とんでもない事例がある。

 女性は2007年4月~2010年3月、森本元教授の研究室で、研究室が受託した研究を手伝うなどの非常勤の「特任研究員」として勤務。元教授川が決めた時給などの労働条件で、阪大と一定期間ごとに雇用契約を結んでいた。当初、女性の雇用契約は週20~24時間程度勤務する内容だったが、元教授側から契約上の勤務時間を減らすようたびたび要求され、業務内容は変わらないのに、2008年8月から段階的に減少。2009年6月から2010年3月の間は週2~3時間だけの契約となっていた。実際には女性は元教授側から従来通りの勤務を要求され、多い時には週5日、1日10時間以上働くこともあったが、賃金は契約通りの週2~3時間分しか支給されなかったという。女性は2011年7月に労基署に相談した。 阪大は、労働基準監督署から事情聴取を受けた後、女性が保管していた勤務記録などをもとに未払い賃金を約300万円と算定し、10月に全額を女性に支払った。女性には、2009年5月以前も同様の未払い賃金があったが、労働基準法で時効となっており、請求はしていない。産經新聞 2011年10月25日)

 この女性の賃金は科研費ではなく阪大から出ていたようで、当初、女性は大学に訴えたのだが、「給与は問題なく支払われている」などとして応じなかったために労働基準監督署に相談したのである。大学の事務方は講座から提出される出勤簿に基づいて賃金を支払うので、大学側の言い分は一応正しい。女性は勤務記録と講座の担当者から送られてきたメールを保存していた。メールには次のように記載されていた。

 4以降のお給料ですが、Aさんは3万円、Bさんは10万円もらっていることと思います。Aさんは以前に森本先生へメールで「今年はお給料はいらない」とのことでしたので、お給料を研究室にバックしてくださいとのことです。Aさんは3万円(お給料の全額)、Bさんは5万円を返金してください。森本先生より、印刷物の原稿をテキスト入力するお仕事をいただいております。全部で3つ原稿があります。Aさん1つ、Bさん2つ、入力お願いいたします。間違いがないか確認をした上で、Aさんは5月15日までに、Bさんは5月22日までに提出してください。原稿は各自の机の上に置いておきます。以上、森本先生よりの伝言です。

 カラ雇用の対象者は二人だが、Aさん(被害女性)にはお給料全額を返却させ、そして仕事を与えている。Aさんが「お給料はいらない」と発言したからと書いてある。その経過はこうだ。

 2008年6月頃、森本元教授から呼び出され「あなたには価値がないので賃金を減らす」と言われ、雇用契約を変更する書類にサインするよう命じられた。元教授に理由を尋ねたが答えはなかった。女性は「職を失わないために元教授側の意向を受け入れるしかなかった。弱い立場につけ込む行為だったと思う」と答えている。研究室は元教授の意向に異を唱えることができない雰囲気だった。同僚からも「指示に従わなければ研究室にいられなくなる」と忠告され、週24時間の勤務を同7時間に減らす契約変更に渋々同意したという。この前後、女性は元教授側から賃金の一部をキックバックするよう求められていたが、「不正ではないのか」と思って拒否。翌2009年5月に上記のメールがあり、拒否した直後、前年度に続いて賃金の減額を迫られた。女性は「我慢すれば研究を続けられる」と自分に言い聞かせ、契約変更に応じたという。産經新聞 2011年10月25日)

 大学の対応は例によってお粗末で、女性が労働基準監督署に訴えたことで、やっと調査を行っている。それによると、元教授は研究室の部下に賃金の一部をキックバックさせるなどの手口で不正経理を繰り返していたとされる。女性は「私に対する仕打ちは不正に加担しなかったことへの元教授による報復だったと思う」と話している。

 このようなカラ雇用による不正は、対象となったアルバイトの事務員や研究員の同意を得て行われる場合と、同意を得ないで行われる場合がある。前者の場合は、不正経理に同意して自身の賃金の一部を教授にキャッシュバックするわけだが、自身は賃金を割り増ししてもらっていることが多い。例えば、週20時間勤務で申告しているが、実際には週10時間勤務で、賃金は週12時間分を貰っているという感じだ。自身も共犯であり表面化することは少ない。後者は通帳を教授などが管理している場合だが、ほとんどの当事者は不正を疑いつつも立場が弱いために我慢している。大阪大学の一件は不正経理パワハラがセットになって起こったために発覚した事例である。ほとんどの不正経理は、内部告発者が新聞社などに告発して発覚するが、泣き寝入りをしている人は数知れない。

(続く http://smedpi.hatenablog.com/entry/2014/08/10/200017