大学における初めてのパワハラ裁判は医学部で起った

大学におけるパワハラについて、初めて裁判で争われたのが、2002年に判決が確定した奈良県立医科大学の事例だ。公衆衛生学講座の女性助手(当時52歳)が教授から嫌がらせを受けたとして、教授と奈良県550万円の損害賠償を求めた訴訟を起こした。1審の大阪地裁は県に対する損害賠償額を11万円に減額し、教授に対する請求は棄却した。

この助手がハラスメントを受けるようになったのは、19934月にこの教授が助教授から教授に就任する際に、助手が反対したことがきっかけである。ハラスメントの内容は「昇進の差別」「出張中に助手の部屋の前に廃液を置いた」「応募資格がない他大学の応募を勧めた」「正当な理由なく、他大学との兼業承認申請に押印しなかった」などである。大阪地裁はこれらの違法行為を認定したが、裁判長は、「兼業申請の件以外は、違法な嫌がらせとまでは言えない」としたのである。

その後、「教授から嫌がらせを受けた」と出版物に書いたこの助手に、教授は損害賠償を求めた訴訟を起こしている。1審の奈良地裁は名誉棄損を認めて助手に33万円の支払いを命じたが、2005年に大阪高裁はこの判決を取り消し、教授側の請求を棄却する逆転判決を言い渡した。

要するに、教授のハラスメントが違法であることが始めて認定され、その責任は大学の設置者である県にあるとしたのだ。

県立の大学であり、教授は公務員なので責任が県にあるのは当然であろう。もし私立の大学であれば責任は教授本人にあるとされたかもしれない。奈良県立医科大学のような公立の医科大学は、現在はほとんどが看護学科などを併設しているが、もともとは医学部のみの単科大学がほとんどである。このような医学部だけの単科大学は、教授の権限が強く閉鎖的で保守的であるという共通の特徴がある。他の学部がないため、医師が一番偉いという思い込みの強い人が多い。

訴えられた教授がどのような教授であったのか不明だが、訴えを起こした助手は女性で非医師である。医学部においてハラスメントを受ける要素が揃っている。

それにしてもはパワハラの損害賠償は少ない。この例では結局11万円であった。一般的にも多くて50万円くらいである。だから弁護士はパワハラ訴訟を嫌う。しかも、ハラスメントには証拠が必要で、証拠がなければ「ハラスメントはなかった」ことになってしまう。一般の会社でのハラスメントも同様だ。大学でハラスメントの調査委員会が開催されても、「ハラスメントはなかった」という結論に達することは稀ではない。教授などの加害者の言い分を一方的に認めるからだ。人前で怒鳴ったり殴られたり、あるいは絶えず録音テープを持ち歩いて録音でもするのでなければ、「ハラスメントは証拠がない」のが普通である。ハラスメントをしても、少し注意されて終わりならば、いつまでたってもハラスメントはなくならない。

ところで、奈良県立医科大学は判決があった直後に、大学のホームページの目立つ位置にハラスメントに対する取り組みを掲載していて、私は妙に感心していた。ところが、被害者である助手が定年退職した頃から(?)、その取り組みはホームページから消滅してしまった。

 

(続く)http://smedpi.hatenablog.com/entry/2014/03/30/152529