医学部はパワハラ天国 3

(前回からの続き)http://smedpi.hatenablog.com/entry/2014/03/24/160243

裁判が決着した後、この方はハラスメントの実態調査を行っている。「アカデミックハラスメントの実態調査研究 -大学および大学教員に対するアンケート調査結果報告書-」(2002年 奈良県立医科大学 御輿久美子である。少し古いが、ハラスメントの実態は今も同じであろう。アンケートの回収率は38%と低いが、931名が回答した。以下はアンケートの集計の一部で、各質問に「はい」と答えた人の%を男女別に示したものである。  

 

 

男性

女性

研究費の配分で不公平を感じたことがありますか

8.1%

14.8%

研究能力が劣っている、つまらない研究をしていると言われたことがありますか

14.6%

20.5%

研究に必要な機器や備品の使用を、あなただけが禁止されたことがありますか

3.2%

6.2%

講義や実習の担当をはずされたことがありますか

4.6%

18.0%

あなただけ、講義や実習の担当を増やされたことがありますか

13.1%

19.4%

あなたを貶めるような噂が流されたことがありますか

13.0%

21.0%

「辞めろ」と言われたり、望まない人事に応募するように迫られたことがありますか

9.4%

14.8%

 やはりというべきか、ハラスメントを受けたことがあるのは男性よりも女性のほうが多い。アンケート対象となった学部の内訳が不明だが、医学部のみを対象とするならば数字はもっと上がるであろう。

興味深い自由記述を以下に列挙する。

・ 他人の研究論文を書くことを強いられた。

・ 実験データの捏造があった。データの改ざんをさせられた。

・ 博士論文を書くとき、不正を強要された。

・ 長期出張中に勝手にファースト・オーサーをとられて論文を出された。

・ システム上昇格できないので、外に出るしか方法がない 

・ 研究費を使うに際し、教授の許可を必要とし、個人で得た研究費は教授の研究費として使われてしまう。また、年度内に消化できない研究費は、教授個人が一部の業者の預かり金としてプールし、教授自身の使途に使われてしまう。 

・ 自分で取った科研費が使えない人がいる。 

・ 論文の提出を妨害された。論文を書かせてもらえない。 

・ 仕事を過重に与える。

・ 目下の人から悪意の告発を受けた人がいる。 

・ 部下を使って嫌がらせを繰り返す教授がいる。他の教官の研究や教育の足を引っ張って、自分の部下を他の者を追い越して昇任させた。 

・ 研究室内で孤立させられた。 

・ 重要な回覧を回してもらえない。 

・ 同僚が、教授から教官の定員問題で教授室に呼び出され顔をにらみつけられ、転職を迫られた。その時の雰囲気は暴力団から恫喝を受けているようだった。

・ 昇任の妨害があった。

・ 同じ専門分野の教授に嫌われているため、昇格や長期研修を妨害されていると思われる教員がいる。人  

  事権や重要事項の決定権は教授がにぎっているためかと思われる。

・ 公衆の面前で攻撃がおこなわれる。 

・ 学生の修論を勝手に書き直して指摘する、翻訳だけして元の著者の名前を削るなど、著作権の意識が低い。

・ 「将来のことが心配です」と言いつつ、望まない人事に応募するようにすすめられた。 

・ 同じ研究所内で助手が二人辞めさせられた。二人ともポスドクになった。

・ 新任の教授から退職するように言われた。挨拶代わりに「新しい所は見つかりましたか?」と毎朝言われていた。

・ 遠回しに、お前は研究室に必要ないという意味合いの言葉を言われた。

・ ある学生は、研究テーマを変更しなかったため、不当に教授からいじめられていた。いじめの内容は、研究発表のとき、何を言っているかわからんと叱りつける。お前は適当にしとけと無視するなど。 

・ 院生が指導教官から運転手にさせられた等々の被害を受けた。その教室では過去、院生の自殺者が複数出ている。また、心身症にかかった人も出ている。 

・ 大学院生に対する不当なおどしが日常的にある。

・ 男性の教官からヒステリックに無能呼ばわりされノイローゼになった女子大学生のケースがあった。指導時の言葉の使い方や態度に人間としてのエチケットを心得ない教官がいる。

・ 女性の助手は、技官や事務員から「仕事をしていない」などの不当な中傷をされたり、本来の職務以外の仕事を押し付けられていた。 

・ 能力がないと文句を言われ、辞めるよう、または他大学へ行くよう常に厭味を言われている助手がいた。しかもそれを学生の面前で言う。

・ 産休をとるなら、辞めるようにと迫られた。 

・ 「女なんて手込めにしてしまえば何でも言うことを聞く」と言われたことがある。明らかにセクハラだ。 

・ 前の職場で上司から文字通りの性的嫌がらせ(性的行為の強要)を受けたことがあった 

・ マッサージを強要される。

・ 昇進の鍵をにぎっている教授(男性)から「今度いつデートをしてくれるか」といわれ、返答に困った 

・ 自宅への執拗な電話が上司からある。 

 

論文の著者を他の人に譲るように言われたり、他の人の名前で書くように強要されたり、実験結果を教授にとられたり、という実験系研究者に特有のハラスメントも多く存在していた。データのねつ造の強要まである。医学部では人事権は教授の専権事項なので、昇進の阻害や退職の強要は日常茶飯事である。女性の場合はセクシャル・ハラスメントも多い。

  そもそもハラスメントは教授の個人的な資質に由来する問題ではるが、医学部特有の閉鎖的な権威主義がハラスメント発生の土壌となっている。医学部の教授はキャリア・業績・学閥・根回しで決まり、人間性は全く考慮されない。医学部においては権力志向の強い一癖も二癖もある教授が多く、基礎医学においては躁うつ病などの感情障害やパーソナリティ障害などを有する者もおり、ハラスメントの自覚がないか、あっても意に介さない者が多い。 

医学部ではハラスメントが非常に多いにもかかわらず、大学側に訴え出る者は少ない。一般の会社員と違って、医師は転職に事欠かない。ハラスメントを受けても我慢したり訴えたりせずに、もっと環境の良い職場へ移動することが十分に可能なのである。もっとも、大学に訴えても解決しないことが多いのだが。

 

(続く http://smedpi.hatenablog.com/entry/2014/04/05/201739