理事長vs学長vs医学部長

 医療ミスなどの不祥時が起こったときに、医療事故の3点セット

医療ミスにおける大学病院の対応3点セット - 医学部教員の独り言

に加えて、大学の内部抗争が顕在化することがある。東京女子医大でもプロポフォールによる男児の死亡事故をきっかけに、理事長vs学長の対立が明らかになった。2014年6月11日、学長の笠貫宏氏が、大学の理事長の吉岡俊正氏、理事・評議員・監事・顧問の全員、計約35人に退陣要求を出した。翌12日に、吉岡理事長の了承を得ずに、高桑医学部長や教授など、笠貫氏を支持する計9人が同席して会見を行った。会見で、「医療ミスかどうか」との質問には、笠貫学長は次のように回答した。「医療ミスだと考えている。禁忌薬を使用していたこと、その使用に当たってインフォームド・コンセントを取っていなかったことを含めて、死亡するはずがなかった患者が死亡した場合は、基本的にミスがあったというのが私の考え方。誰の責任かについては、警察の捜査が入っているので、そこで明らかになっていくのだろう」。

 その後、大学理事会は2014年7月に笠貫学長を、8月には高桑医学部長を解任した。笠貫氏の任期は2015年3月までの予定だった。就任直後から、笠貫氏に賛同する教授らと「学長諮問会議」を設け、大学建物の耐震診断やその対応の遅れ、理事会が作成した女子医大のキャンパスの施設計画などの点で、大学のガバナンスを問題視していた。教授会でも、議題に取り上げるなどして、理事会と対立していた。プロポフォール投与事故については、「事の重要性を認識し、記者会見を行い、透明性を確保し、社会的責任を果たすべき」などと訴えてきた。一方で、本事故では、遺族にマスコミから連絡が入るなど、患者情報の漏えいが問題になり、大学で調査を進めていた。笠貫氏自身、会見で遺族の自宅に手紙を送ったことを認めている。 

 理事長は大学の経営・事務の長で、学長は教育・研究の長である。公的な大学法人では理事長=学長だが、女子医大のような私立大学では理事長と学長が異なり、両者が対立することは珍しくはない。裁判にまで発展した事例もある。2013年、北海道の老舗の看護大学である天使大学で、学長らの教職員が不当労働行為などで理事会を訴えた。結果は教職員の勝訴であった。

 では、理事長=学長が良いかというとそうでもない。権力が学長(理事長)一人に集まり、学長が野心家の場合、権力の行使・乱用に走ることがある。看護学部などがおまけで付いている単科に近い医科大学で多く起こる。医師は頑固で偏屈で人の意見に耳を傾けないものが多いが、学長になりたいという医師は、その上に、権力志向や名誉欲が人一倍強い。こういう学長は、医学部の講座を増やし、それらの講座の教授や教室員には学長の講座の者を配置して、勢力の拡大を図ったりする。

 理事長vs学長だけではない、学長(理事長)vs医学部長もある。前者は理事長が、後者は学長の権力が上である。医学部長は学長と比べて、大人しくソフトな感じの人が多い。選任当初は医学部長にやる気と正義感があっても、やがて権力者の学長の言いなりになって、存在感も薄くなってしまう。

 大学で事件や事故が起こった時に、潜在的に存在していた学長(理事長)vs医学部長の対立が明るみに出ることがある。学長(理事長)が気に入らなかった医学部長を解任した事例が、2011年の医学部教授が男子学生を土下座させ頭を踏んだ横浜市立大学の事件である。(医学部はパワハラ天国 2 - 医学部教員の独り言