医療ミスにおける大学病院の対応3点セット

  2014年2月21日、東京女子医科大学病院耳鼻咽喉科入院中の2歳10カ月の男児が、嚢胞性リンパ管腫の手術後のICUでの管理中に鎮静薬プロポフォールの大量投与によって死亡した。プロポフォールは、小児麻酔の適応はあるが、小児への集中治療における人工呼吸中の鎮静は禁忌とされている。プロポフォール使用はICU担当の麻酔科医が決定し、体重約12kgの男児に、約70時間の間に約7000mgのプロポフォール(成人の最大投与量の約2.7倍)が投与された。

  遺族に対する病院による説明会は、3月1日、4月19日の2回開かれた。男児の父親は、「3月1日の説明会の時に、『原因究明をして、悪いことがあったなら、謝ってほしい』とお願いした。しかし、電話1本、院長につないでくれない。病院長が『原因究明する、陣頭指揮を執る』、その一言を言ってもらいたかった。しかし、事務職員に電話ができるだけで、『上に伝える』と言うのみ。病院と対立するつもりはない。原因究明してくれればそれでいい」と語っている。

  6月12日、女子医大側は、小児の人工呼吸管理の鎮静を目的としたプロポフォールを使用した症例について調査したことを報告。2009年から2013年の過去5年間で計63人に使用されており、うち12人が投与後、数日から3年程度の間に死亡している。永井院長は、「院内調査をした限りでは、プロポフォールに起因した死亡例はないと思われる。その多くは感染症で死亡している」と説明。

  翌日の6月13日、遺族は病院内の事故調査の中間報告書を撤回するよう要求した。記載内容および事実に基づく検証が「不十分極まりない」ことが理由だ。男児の死亡に至る機序の分析がなされておらず、事実経過の整理も従来の説明と異なっているほか、誤りと思われる事実が記載されているなどの問題点を指摘している。

  その後、第三者調査委員会が設置され、遺族に対する聴取に関して「聴取は30分間で、心情面のみ」との条件を打診していたことが分かった。遺族側は拒否し、調査委員会の対応に反発している。

  そして、2015年2月19日、遺族は同大学の麻酔科医ら5人を傷害致死罪で刑事告訴した。女子医大が2014年7月に遺族に渡した資料の中に、「男児が死亡したICUを管理していた麻酔科がプロポフォールの適応拡大を検討していた」という旨の内部告発の文書があった。男児にはプロポフォールの大量投与が行われたにもかわらず。女子医大が設置した第三者調査委員会が2015年2月にまとめた報告書には、鎮静薬としてプロポフォールを選んだ理由や、大量投与の理由が書かれていないという。(m3.comより抜粋) 

  今回のプロポフォールの件が、今後どうような展開になるかわからないが、医療ミスが起こったときに、大学病院の対応は以下の3点セットで行われることが多い。

  1. 口裏合わせ
  2. 特定の医師への責任転嫁
  3. 医療ミスはなるべく無かった事にする調査委員会

 かなり昔になるが、1968年に札幌医科大学第二外科(胸部外科)で日本初の心臓移植が行われた。しかし、移植患者の心臓は移植が必要なほど重症ではなく、ドナーは脳死ではなかった、という疑いが濃厚であった。和田(教授)は殺人容疑で告発された。第二外科の医局員は口裏合わせを行い、責任は胃がんで死亡した研究生に転嫁された。医学界や学会は和田をかばい、検察が3人の医学会の権威に依頼した医学鑑定書はあいまいなものだった。証拠隠滅と口裏合わせをし、閉鎖的で権威的な医学部に阻まれて検察は苦労し、結局、和田は不起訴となった。和田は、この事件以降も9年間教授として札幌医大に在籍した。その後は、奇しくも女子医大に招かれ、定年退職した。詳しくは(北海道で2例目の心臓移植が行われた。日本初の心臓移植「和田移植」の46年後であった http://smedpi.hatenablog.com/entry/2014/01/12/222141)を読んでいただきたい。

 女子医大は、 2001年にも心房中隔欠損症の12歳の女児に対する過失傷害致死事件を起こしている。大学はいい加減な調査を行い、ある医師に責任を押し付けた、医師は業務上過失致死という重い罪に問われ、逮捕・起訴された。裁判の結果、無罪が確定したが、起訴されてから6年以上たってからのことである。(東京女子医大の業務上過失致死事件のもう一人の犠牲者 http://smedpi.hatenablog.com/entry/2014/01/13/155558