群馬大学医学部の事件

  群馬大学医学部が問題を起こしている。群馬大病院第二外科(消化器外科)で、2011~14年に行われた肝臓の腹腔鏡手術55例中8人の患者が術後4か月以内に死亡していた。また、開腹手術でも患者84人のうち、60~80歳代の男女10人が術後3か月以内に敗血症肝不全などで死亡していた。いずれも執刀は同じ40歳代の男性助教であった。術前術後のディスカッションや死亡症例検討会を一度も開いておらず、責任者である教授は患者死亡の詳細を把握していなかった。別の医師のミスだが、第一外科で十二指腸の腫瘍を摘出する手術を受けた50代の男性患者が術後に容体が悪化して2014年2月に死亡し、群馬大病院はミスがあったと認め、遺族に謝罪している。

  医療ミスを繰り返す医師をリピーター医師というが、第二外科の40代の医師はまさにそれだ。医師としての適性を欠く人間が間違って医師になってしまったわけだが、残念ながら、このような医師は決して珍しい存在ではない。むしろ問題なのは、講座のスタッフが死亡例の多いことを把握していながらこの医師を放置していたことと、責任者である教授が患者の死亡の詳細を知らなかったことだ。

  大学の体質なのだろうか、群馬大学医学部は他にも問題を起こしている。2014年11月20日、分子予防医学講座の40代の男性教授が5人の職員にパワーハラスメントをしたとして懲戒解雇処分となった。これに対して、この教授は解雇が不当だとして大学を提訴した。日経メディカルニュースによると、その概要は以下の通りである。

  群馬大学は2014年11月、継続的にパワーハラスメントを行ったとして、医学系研究科のA教授を懲戒解雇した。だが、教授は解雇処分は不当だとして大学を提訴。本誌の取材に対し、「研究者の常識の範囲の指導だった」と説明した.

  群馬大によると、A氏は講師2人、助教3人に対して退職や休日出勤を強要したり、業務上必要な範囲を超える叱責や暴言を繰り返していた。5人のうち2人は既に群馬大を退職し、別の大学に勤務している.

  関係者への取材によると、A氏は講師らに対し、他の研究機関の求人への応募を指示して退職を迫ったり、「月曜に作業を進めたいなら土日に準備が必要だ」と言って休日出勤を強要した。深夜まで4時間以上にわたり、机を叩きながら大声で叱責したことも複数回あったという。こうした言動により、複数の研究者が抑うつ状態となったり体調不良を訴え、休まざるを得ない状況に陥った。教室に所属していた元部下の研究者は、「『期限までに論文を出せなければ辞職する』との誓約書を書くよう頻繁に求められた。ここでは到底、研究を続けられないと思った」と話す。

  A氏は2012年1月に群馬大教授に就任。その直後から、同大のハラスメント相談員にパワハラ行為に関する相談が寄せられた。群馬大によると、2012年1~3月に医学系研究科長が3回にわたって注意・指導したが、改善が見られなかったという。このため大学は関係者などへの事情聴取を行い、諭旨解雇処分を決定。「(A氏が)退職願を提出しなかったため、懲戒解雇処分とした」A氏によれば、群馬大から諭旨解雇処分を告げられた際、応諾書または応諾拒否書へのサインを求められた。これらの文書をいったん持ち帰って検討したいと告げたところ、応諾拒否と見なされ、その日のうちに懲戒解雇となったという。A氏は諭旨解雇と懲戒解雇のいずれも不当・違法であるとして、地位の確認と賃金支払いを求めて群馬大を提訴した。

   新教授が赴任した際に、講座のスタッフに退職を求めることは医学部ではよくあることだ。教授の都合による退職の強要は職権乱用でハラスメントに相当するが、以前にも書いたように医学部はパワハラには寛容である。医学部でパワハラが理由の解雇処分は非常に珍しい。ハラスメントの内容が悪質であったことと被害者が複数であったことが厳しい処分の理由であろう。

 私はハラスメントに対する群馬大学の対応に疑問を感じる。2012年1月からハラスメント相談員に相談が寄せられたにも関わらず、調査委員会を設置せず、医学系研究科長が注意しただけである。こんなパワハラを行う医学部の教授が、研究科長の注意だけで反省し言動を改めることはあり得ない。公に懲戒処分がなされないのだから平気である。そして、2年半も経ってからの2014年11月に懲戒解雇となった。その間に、スタッフが病気になったり退職したりしている。大学は2年半も何をやっていたのだろう、というよりも、なぜ何もしなかったのだろう?なぜ迅速に対応しなかったのだろう?

 医学部のハラスメント対策は実にお粗末である。教授のハラスメントは無かったことにしたい。パワハラしてこそ一人前の医学部の教授になれるのである。(http://smedpi.hatenablog.com/entry/2014/03/21/224419

 ところで、A教授は分子予防医学講座の教授であった。予防医学とは病気の原因を分析し病気の予防方法を探る学問である。個人ではなく集団を研究対象としており、臨床医学基礎医学の中間に位置している。社会医学、公衆衛生学、衛生学、保健衛生学など、大学によって講座の名称が異なる。教授はほとんど医師だが、医療行為を行うことはないので教授以外のスタッフは医師ではないことが多い。これが原因なのか、それともこの分野の教授に異常な人間が多いのか、奈良県立医科大学http://smedpi.hatenablog.com/entry/2014/03/24/160243)や大阪大学医学部(http://smedpi.hatenablog.com/entry/2014/08/03/212554http://smedpi.hatenablog.com/entry/2014/08/17/212232)の例のように、ハラスメントは予防医学分野の講座で目立っている。私が知っているある大学の公衆衛生学の教授もパワハラをしている、しかも軽度の双極性障害躁うつ病)があり、やっぱりおかしな人間が多いような感じがする。