医学部は不正な金銭が多い? その6(プール金の発覚事例)

(前回から続く http://smedpi.hatenablog.com/entry/2014/08/15/224237) 

 大阪大学の事件以降、文部科学省の要請を受けて、全国の大学では公的資金不正経理の調査を始めた。

 北海道大学では、2011年7月、札幌国税局から「取引業者との間で不適切な会計処理の疑いがある」と指摘を受けて調査を行った。2012年12月21日、2007年度以降に少なくとも2億2374万7285円に上る預け金などの不正経理があり、15部局の教授ら35人が関与していたとする学内調査の中間報告を発表した。最終的には、大学内に会計書類が残っている2004年度以降について調査する方針で、不正額や関与した教員数が大幅に増えるのは確実だ。報告によると、北大が提出を受けた取引業者16社の2004年度以降の預け金に関する帳簿には教授ら390人の名前と、164の講座名が記載されていた。北海道新聞  2012年12月22日)

 北海道大学は7月15日、架空発注で支払った物品代金を出入り業者に管理させる「預け金」など教員による研究費の不正経理の最終報告を発表した。記録が残る2004年度以降、不正経理に関与した教員は59人、総額は約5億3500万円に上り、うち退職者3人を除く教員56人を停職や出勤停止などとした。山口佳三学長ら理事8人も7月分の給与の10分の1を自主返納する。(読売新聞 2014年7月15日)

 北大と同じく札幌市にある札幌医科大学は、取引額や件数が多い業者106社にアンケート調査を行った結果、取引業者1社が「預け金がある」と回答したため、学内調査委員会を開き、事実関係の確認を始めた。(北海道新聞 2012年1月14日) この業者には公的資金8件から計約200万円の預け金があり、札幌医大は平成24年8月22日付で、預け金に関与した医学部教員3人に対して減給などの処分を行ったと発表した。札幌医大は北大と比べて大学の規模が小さいとはいえ、北大の状況から考えると、預け金を行った教員が3人で業者がたったの1社とは少なすぎる。教員や業者に対する大学の自主的なアンケートでは、預け金を正直に自己申告する者はほとんどいないであろう。国税庁のような外部の機関の指摘で大学が調査を行い、不正経理が発覚するのは稀な事例で、ほとんどは関係者による内部告発である。医学部は権力を笠に着た教授によるパワハラが多い職場であり、その被害者が新聞社などに告発するケースが多い。

 大阪大学の例に戻るが、問題の教授は研究補助員の女性へのただ働き要求(http://smedpi.hatenablog.com/entry/2014/08/03/212554)が発覚する以前に、公的資金の不正流用の問題も起こしていた。

 大阪大学調査委員会は2011年2月10日、流用の総額が4170万円に上ると明らかにした。元教授は2004年以降、カラ出張や架空伝票の作成を繰り返し、うち約450万円を私的流用していたという。大阪大は今後、詐欺罪で刑事告訴するか検討する。調査委員会によると、流用が発覚したのは大阪大大学院医学系研究科の森本兼曩元教授(64)で、現在は特任教授として同大に在籍。04年からカラ出張を202回繰り返して約360万円を流用したり、実際は同行していない研究員の出張費を268件申請して約1320万円を着服したりしていたという。また、研究室の備品を購入する目的で約1590万円分の架空伝票を作成、約360万円を業者にプールしていた。森本元教授は調査委員会に対し「不正の意識はなく大半は手続きミスだが、一部にカラ出張があった」と釈明。既に大阪大に3900万円を返金し、府に委託事業費約125万円を返還した。調査委員会は、森本元教授以外にも不正流用を行っていた職員がいたとして、今後調査を行う。時事通信 2011年2月10日)

 4千万円を超す研究費の不正使用が判明した大阪大の研究室の支出の中には、適正な購入と認められたものの、不可解な物品も数々ある。この研究室の教授だった森本特任教授(64)は大阪大の調査委員会に対し、研究や教育目的だったと説明。調査委は「自由な発想のもとでの研究には必要」としている。研究室の倉庫として使われている冷温室。新品の大型鍋三つ、ビールの原料の麦、瓶詰用のふたなどが入った段ボールが置かれている。鍋はいずれも2008年2月、森本特任教授が文科省科研費で栃木県の業者から計19万9500円で購入した。業者によると、ビール製造用の特注品。研究室が提出した書類には「研究で必要なため購入」と記されていた。しかし、当時の研究室関係者は「ビールの製造を指示された。森本先生の趣味で、研究とは無関係だった」と証言する。その前年、森本特任教授の指示で研究員らが実験室で別の鍋を使ってビールを醸造し、森本特任教授と研究員が学内で飲んだと語る。瓶につめ、世話になった人たちに贈ったという。国税庁によると、酒造には免許が必要で酒税法違反の疑いもある。その後、研究室で本格的にビールを製造するため鍋を購入したが、ビールづくりを担当していた人が研究室を辞めたこともあり、鍋は使われないまま放置されているという。森本特任教授は調査委に、「森林から出る化学物質を調べ、健康飲料をつくるため」と説明したという。04年8月には、研究室の運営費交付金を使い、「パロディーコンドーム」「キングバナナ」などの遊興用避妊具96個を計4万2151円で購入していた。若者の性感染症予防策を学ぶため、実習で学生らが神戸市内の店舗で購入したという。これらの避妊具は行方不明という。 環境医学を専門とする森本特任教授の研究とは直接関係ないとみられる書籍も多数購入。「オサマ・ビン・ラディン発言」「近代ヤクザ肯定論」など。森本特任教授が定年になる直前、定年退職を控えた官僚を主人公にした浅田次郎氏の小説「ハッピー・リタイアメント」を買った。研究費は大学の経理部局で管理。研究室からの届け出を、経理部局が書面の不備がないことを確認して支出する。大学の経理責任者は「研究費執行の権限は教授にある。教授が研究に必要だといえば支払わざるを得ない」。森本特任教授は「研究費の支出は研究室の会計責任者にまかせている」と話す時事通信 2011年2月11日)

 大阪府は2007年(平成19年)にストレスに関する調査のために300万円を問題の教授に委託した。不正使用が発覚してから、大阪府は委託経費の返還を教授に求めたが、教授に拒否され、返還に至ってはいない。当時、大阪府はホームページで次の橋本知事のメッセージを掲載していた。

 8月20日、大阪大学調査委員会が、大学院医学系研究科・医学部元教授の科学研究      費等の不正使用問題について、中間報告を公表しました。「不正使用」と認定した額は、1,731万円。この中には、大阪府が平成19年度に大阪大学に委託した調査費の一部(125万6千円)が含まれていることがわかりました。

 この調査は、平成19年度に総額300万円で大阪大学大学院に委託したものであり、その目的は、生駒山系、つまり、緑に囲まれた自然の中を歩いた人のストレスがどれだけ減ったかを調査し、今後の府の健康づくりの施策に役立てるためのものです。

 早速私は、担当部局に対し、事実関係を調査するよう指示しました。その際、さらにこの委託調査費の中で、海外(ヴェネチア、フィレンツェ)への出張経費65万円が支払われているという報告を受けました。これは、契約当初の段階では積算されていなかったものです。

 事情を聞きますと、当時の府の担当者は、委託経費の精算に際し、再三にわたり返還協議を行なったにもかかわらず、元教授は、頑なに返還を拒絶したということです。「大阪大学は国際的な研究機関だから、海外出張は当たり前」「契約の範囲内のことだから、事前に府に申し出る必要はないと自分で判断した」などと、大学の権威、大学教授の権威を振りかざす、勝手な強弁を繰り返したということでした。

 当時の府の担当者は、こうした元教授の強硬な姿勢に押されてしまい、返還請求にまで至らなかったとのことですが、こうしたことは、府民感覚、府民目線で考えると到底許されることではありません。

 元教授の横暴極まりない言動には、血税を使って調査研究を行っているという意識や姿勢が微塵も感じられません。研究室の経理や執行を指導すべき大学事務局も、元教授の主張を追認し、本府への返還を拒みました。大学としてのガバナンスがまったく欠如していたといわざるをえません。

 現在、大阪大学では、年内に結論を出せるよう調査を継続するとのことですが、府としては、今回の調査委託費の一部がイタリア出張に充てられていたということを重視し、自ら調査を実施するため、大阪大学に改めて関連資料の提出を求めています。

 大阪府が委託した300万円の経費の中にも、これだけの不正な経理がありました。最終報告では中間報告以上の不正が隠れているかもしれません。研究費の多くは、国民、府民の税金が原資であり、そのおかげで大学が成り立っているということを忘れてもらいたくありません。

 橋本知事の怒りが伝わってくる。「大学の権威、大学教授の権威を振りかざす、勝手な強弁を繰り返した」と記載してある。この社会常識からかけ離れた言動は、医学部の中でも特別に異常な教授だからだ、と一般の人々は思うに違いない。しかし、この教授は医学部の体質に十分に馴染んでいる。ただ、少し品性が足りなくて、あまり頭が良くなかったのである。昔は、権力を振りかざすこの手の医学部教授はたくさん存在した。最近は教授の腰も低くなってきたが、大学の体質は変わらない。 

(続く)