医師派遣打ち切りという伝家の宝刀(1)

  大学(医局)が地方自治体への医師派遣を打ち切るという事態が今までに数多く起っている。医師不足による過重労働と給与面での待遇について、派遣先である病院側との折り合いがつかなかった場合に、派遣元である医局が医師派遣を打ち切るという形で起ることが多い。臨床研修医制度の始まった2004年度からこのような派遣打ち切りが頻発した。

  2006年3月~9月、北海道江別市立病院では、北大第一内科から派遣されていた内科医12名が次々と退職して常勤内科医がゼロになり、内科病棟は10月に閉鎖となった。医師の過酷な労働と高くはない賃金がその理由である。江別市立病院は札幌医科大学に医師派遣を要請したが、札幌医大の回答は「常勤医の派遣は困難」というものであった。さらに、2人いる産婦人科の常勤医のうち1人が年末までに辞職、残る1人も北大が派遣を打ち切ることにしたため2010年春で辞職した。(北海道新聞 2006年9月20日)その後、江別市立病院は2007年4月に赴任した阿部昌彦副院長のもとで総合内科を中心に再建され、2009年には産婦人科も再開されている。

 最近の事例では、北海道の苫小牧市立病院の麻酔科で、2012年3月をもって麻酔科常勤医3名が退職し、4月からの常勤の医師が不在になるという事態が起った。4月以降はなんとか常勤医1名を確保しているが、病院のホームページでは「麻酔科の外来診療は当分の間休診とし、不急の手術の延期や、当院の受け入れが難しい救急の患者さんを他院へ転送させていただく場合などがございます」との案内が掲示されていた。苫小牧市立病院と札幌医大麻酔科との間には医療事故の事後処理をめぐってトラブルがあり、札幌医大が苫小牧市に不信感を募らせていたことで、医師一斉引き上げという強硬手段に出た。苫小牧市長は札幌医大が派遣引き揚げの方針を示したことについて、医師不足のほか、一昨年6月の医療事故に対する「病院の対応も影響している」と説明。十分な事故解明を行わず、麻酔による事故として議会報告したことについて「麻酔科医師、大学医局関係者に大変不快な思いをさせ、心からおわびしたい」と不適切な対応を陳謝した。麻酔科医が病院から離れていくことにつながる可能性は十分にあり得た」との認識を示した。(苫小牧民報  2012年 3月2日)

 医療事故に対する不適切な対応とは、2010年5月に人工関節置換手術を受けた患者に術後発生した障害に対して、院内の情報共有や検証が不十分なまま、「麻酔による事故」として病院が市議会に報告したことである。その後の市立病院事故調査検討委員会で、事故原因については「時間が経過し、特定は困難との結論に至った」と報告された。

 さらに、札幌医大麻酔科は、浦河赤十字病院と国立函館病院の常勤麻酔医の派遣と、市立赤平病院と市立三笠病院の非常勤麻酔科医の派遣の打ち切りも決定した。(北海道新聞 2012年3月2日)

 同じく北海道で、旭川医科大学の麻酔科も、2012年3月末をめどに、釧路赤十字病院と市立根室病院での常勤麻酔科医の派遣を打ち切った。(釧路新聞 2012年3月7日)北海道は、北海道大学医学部、札幌医科大学旭川医科大学の3つの医学部が存在するが、医師の地域偏在が大きい都道府県のひとつであり、各自治体は医師の確保に非常に苦労している。北海道は面積が広いため過疎地が多く散在しており、冬の厳しい気候も障害となって、全国で無医地区が一番多い。 

  麻酔科は女性に人気の専門分野で、どの大学でも女医の割合が高い。札幌医大麻酔科では、在籍する40人の医師のうち、女性が4割を占め、その内6人が産休に入ったことも派遣引き上げの理由だと説明している。厚生労働省の報告では、30~40代の男性医師の就業率が90%を超えているのに対して、女医の就業率は80%前後である。(医師を取り巻く現状等について 第1回 今後の医学部入学定員の在り方等に関する検討会 平成20年 厚生労働省医政局)女医の就業形態がフルタイムかどうかは不明であるが、男性と全く同じとは考えられなので、女性の多い診療科の人手不足は十分理解はできるのだが・・・

(次回へ続く http://smedpi.hatenablog.com/entry/2014/11/29/222240