医師派遣打ち切りという伝家の宝刀(2)

(前回から続く http://smedpi.hatenablog.com/entry/2014/11/24/210920

 近年、医局という封建社会が崩壊して、特に地方の病院は医局人事と関係なく医師を採用できるようになったと言われるが、医局制度はちっとも崩壊していない。麻酔科に限らず、地方自治体へ医師を派遣する医局側の態度には「派遣してやっている」という意識が現れる。地方自治体は医師派遣をお願いしている側であるから、医局が上で自治体が下という上下関係が生じてしまう。しかも、自治体が医局という封建社会(教授を頂点としたピラミッド型の主従関係で、教授の権威と名誉のために医局員が仕える社会)や医者の世界には派閥があるということを理解していないことが多いので、教授が満足しない条件の提示や振る舞いをしてしまうことがある。例えば、「派遣元の医局と対立する医局あるいは他大学の出身者を病院長に選任して、派遣元の教授のご機嫌を損ねる」などである。しかし、医学部は特殊な組織であり、自治体職員が医局を理解できなくて当然である。

 地方自治体が破格の給与を提示したり、医局へ相当な経済的援助を行えば、医局側も人手不足でもなんとかして医師を派遣しようと努力するかもしれない。自治体も病院を維持するために必死だが、税金で運営されている以上、非常識に高額な給与を支払うことはできない。そうでなくても地方の病院は人件費が経営を圧迫し赤字で苦しんでいるところが多い。一般的に医療系職種の給与は高い。特に医師の給与は高く、医師が1人退職すると病院は黒字に転換すると揶揄されるほどだ。

 医師不足を理由に病院を閉鎖するわけにはいかない。そこで、医師派遣への見返りとして、自治体は医局へ年間数十万~数百万の謝礼金を提供していたことがある。北海道えりも町では札幌医科大学救急集中治療部へ2年間で8,400万円もの資金提供を行っていた。(読売新聞 2003年8月29日)もちろん医師派遣の便宜を計ってもらうのが目的であるが、自治体の財政が豊かではない状況の中で大きな負担である。さらに、自治体は定期的に医局員の接待も行っていた。札幌医大は北海道立の公的な大学であり(現在は公立大学法人)、道民の多額の税金が投入されている。その建学の精神には「医学・医療の攻究と地域医療への貢献」、大学の理念には「道民の皆様に対する医療サービスの向上に邁進します」と書いてある。どうような状況であれ、積極的に医師派遣を行い地域医療に関わっていくのが、公的な医科大学の使命のはずなのだが。

  医師不足で地域医療に貢献できないなら、医学部は積極的に医師増員に向かって進まなければならないのだが、医学部新設には大反対である。