増加する女医とガラスの天井

 

平成22年度における女医の割合は全体で18.9%だが、29歳以下に限ると35.9%であり、年々増加している。どの職種にも言えることだが、女医が結婚して妊娠すると、出産と育児のために一時的に休業する。その後復職する場合もあるが、退職して他の職場へ移動したり、常勤ではなく非常勤に変更になったり、男性医師が決して経験しないような働き方の変更を余儀なくされる。復職した場合も、男性と同じ業務をこなしながら家事・育児を行うわけで、その大変さは一般の会社員の比ではない。病院では夜間・休日の当直があり、看護師のように交代勤務ではない。勉強会や会議は17時以降に行われることが多く、手術が長引いたり急患が入ったりして、定刻に帰宅することは稀である。大学病院には保育所が併設されているが、看護師などの医師以外の医療職が優先で、収入が高い医師は後回しにされることが多い。既婚の、特に子育て中の女性医師のハンディキャップは相当なものである。

しかし、実は女医の婚姻率は低く、2001年度に山梨医科大学が卒業生を対象に行った調査では、40歳代前半の女医の未婚率は約70%であった。当時の国勢調査の同年代の女性の未婚率の約10倍である。では、未婚者が多い女医は大学に残ってバリバリ研究をしているのだろうか?

最近は教員の数や構成をウェブ上で公開している大学が多い。日本で唯一の女医の養成機関である東京女子医科大学でも、医学部の専任の女性教員の割合はわずかに37.1%(平成24年度)である。職位ごとの割合は、助教41.5%、講師33.6%、准教授で大きく下がり22.4%、教授17.7%と位が上がるにつれて女性の割合が減少している。専任ではない非常勤講師の女性の割合は51%である。明治33年に東京女医学校が創設され、昭和27年に大学が開設された長い伝統を持つ大学で、多くの女医を輩出しているのに、この割合である。これらの数字から、たとえ女子大学であっても、医学部で女性が生き残っていくことは、いかにハードルが高いかわかるだろう。

当然のことながら、男女共学の一般の医学部では女性教員はさらに少ない。例えば、岐阜大学医学部では12.5%(平成23年度、附属病院を含まない)、山形大学医学部は20.7%(平成21年度、附属病院を含む)である。女性教授の数は、各医学部のホームページを調べると、概ね03名程度である。女医の数が少ないとはいえ、他学部と比較すると格段の少なさである。

医学部は男性優位の職場であり、特に臨床においては男性医師の体力や生活に合わせた勤務体制を取っている。まず、夜間や休日の当直明けは通常勤務であり、看護師のように交代勤務ではない。外科系講座に所属すれば、長時間におよぶ手術があり、体力的にきつい。診療の後に会議や勉強会があり、講義の資料作成や研究のための時間も必要で、帰宅時間が遅くなる。学会などの出張も多い。教授ともなると、会議・大学の雑務・講演会・出張などで、さらに多忙である。相当な体力と長時間の職務に専念できる生活環境が必要で、男性に比べて体力的に劣り、家事・育児・介護などの家庭での雑事が多い女性にとっては、大学に残り男性と同じ土俵で出世していくことは非常に厳しい。

臨床系・基礎系の講座を問わず、同じような業績・キャリアであれば、男性が必ず先に出世するし、たとえ女性のキャリアが上でも、男性の出世が優先される。だから女性教授が極端に少ないのである。正に「ガラスの天井」である。「ガラスの天井」とは、ガラスを透して頭の上のトップの座が見えているのに、そのガラスが天井となってつかえている状況を示し、実力がありながらトップに上ることができない女性に対して、アメリカでよく使われる言葉である。

医学部が特殊な社会であることを女医はよくわかっている。出生街道に乗ることなく大学を去る人が多い。