医学部新設反対の医師会と大学病院(2)

(前回より続く  医学部新設反対の医師会と大学病院(1) - 医学部教員の独り言)

 医師会も大学病院も、医学部新設反対というスタンスは同じである。日本医師会は歯学部の定員割れにも言及している。医師を増員すると、将来、歯科医師のように過剰なると恐れる。しかし、ほとんどの医師はなぜ歯科医師がこれほど増えたのか理解していない。

 現在、歯学部を有する大学あるいは単科の歯科大学は国公立大学が12校、私立大学が17校で、計29校存在する。最も古いのは東京歯科大学で、歯科医学院として1890年(明治23年)に開校。その後、明治・大正時代に6校が開校した。昭和3年(1928年)に国立大学である東京医科歯科大学に歯学部が開校して以来、昭和30年代前半までに歯学部の開設は皆無であった。人口と平均寿命の増加に伴う歯科医師数の不足が問題となり、昭和35年~昭和54年の19年間に、国公私立大学合わせて21校もの歯科大学・歯学部が開設された。当時の歯科医師の総数は医師の約1/3の約65,000人であったが、募集定員は国立大学で50名程度、私立大学では100名以上であるから、すぐに過剰になることは明らかであった。明治の頃から、歯科医業に対する行政の対応は、まず医師の利益優先で、歯科医師は後回しあるいは無策であった。歯学部増設に対する当時の歯科医師会の見解は不明だが、おそらく増員に積極的に賛成したのではないか?結局のところ、歯科医師過剰は行政と歯科医師会の無能が原因である。

 医学部の増設が歯学部と同じように進むことはあり得ず、医師会や大学病院の過度の心配は的外れである。入学定員が増え、医師の総数もここ10年間で4万人以上増加しているが、寄与しているのは女医と高齢医師の増加である。医学部の女子学生の割合は昭和50年代には13%程度であったが、平成に入って以降は30%を超えている。しかし、卒業後の女医の就業率は20代から50代にかけては80%前後であり、男性医師と比べて就業時間も短い。医師の就業率は男女とも60歳を超えると減少し、70歳では男女とも60%である。(平成20年 第1回 今後の医学部入学定員の在り方等に関する検討会 医師を取り巻く現状等について)医師数が増えたからといって、医師の労働力が増えるとは限らないのである。

 それにしても、医師会や大学病院の主張には患者からの視点が全く欠けている。地域からの医学部新設の要請にも関わらず反対とは。医者のエゴと言われても仕方がない。需要に対して供給が少なければ、その職業の価値は高く尊敬される。医師は永遠にそうありたいのである。しかも、彼らの反対理由は説得力に欠ける。「医学部新設で医師不足が加速する」などという主張も、一般の人でさえ「そんなことはないのでは?」と思ってしまう。

(次回に続く  東大話法ならぬ医者話法? - 医学部教員の独り言